歩道を叩く雨は、さっきよりも激しさを増している。まるで梅雨の最後の抵抗のように、落ちて、跳ねて、流れる。

土曜日の常盤町は雨のせいか車も少なく、色をなくした景色に雨音だけが聞こえていた。

ラジオ局の本社前にあるオープンスタジオに、人の姿はない。ブラインドの閉まったガラスの上にあるスピーカーからは、洋楽が流れている。

雨よけの下でガラスにもたれてぼんやりしている私の頭のなかでは、さっきから過去の映像が雨のスクリーンに映っている。

幼い日の私。小学生になった私。どんどん大きくなっていく毎日にたくさんの思い出がある。

その一つひとつに、いつも公志がいた。

——違う……いてくれたんだ。

頼りない私をいつも支えてくれた公志。そばにいたのに恋心を持ったせいで、私はちゃんと公志を見られなくなっていた。まんなかまなかと呼ばれてからはさらに殻に閉じこもってしまい、公志だけじゃなく日常からも目を逸らせてしまっていた。

「公志……」

その名をつぶやけば、昨日の武田さんの話を思い出しズキンと胸が痛くなる。

最後まで武田さんの声は震えていた。

目を閉じて彼女の言葉を最初からたどると、雨の音が少し遠ざかるよう。