……どれくらい時間が経ったのだろう。
眠気が訪れた私が電気を消したとたん、オレンジの光が部屋を照らした。
「公志……」
まるで消えそうなほど弱い光が、ラジオの周りにゆらめいている。
「やっとか……」
安堵のため息を漏らした公志が、ゆっくりと上半身を起こした。
ジジ ザザザ ジジジジ
いつもより大きな雑音が聴こえ、徐々に小さくなっていく。無音になったラジオは、まぶしいほどの光を放っている。やがて、声が耳に届いた。
《なんてことをしてしまったの……》
隣を見ると、公志の目が大きく見開かれていた。すぐに次の声が聴こえる。
《自分が嫌で仕方ない。どうして私は、あんなことを……》
目が離せないまま、私は「公志」と呼ぶ。けれど彼は、
「これは関係ないだろう」
顔を背けてそう言った。
「でも、この声……」
「茉奈果。この声は関係ないんだ」
そう言って私を制し、公志はゆっくりと立ち上がった。ラジオからは再び雑音が聴こえ出している。
「ラジオから聴こえる声がヒントなんでしょう。だったら——」
「違うって言ってるだろう!」
大きな声に驚くよりも、急な公志の変化に戸惑った。こんなふうに声を荒げる彼は見たことがなかったから。
気まずそうに公志は「だから……」ボリュームを絞って続けた。
「この声は気にしなくていいんだよ」
「……ダメだよ」
今にも背中を向けそうな公志に私は言った。
「ちゃんと向き合って、探し物を見つけなくちゃ。そうしないと、きちんと旅立つことができないでしょう?」
ムスッとした顔の公志は、
「どうせ消えるなら同じだろ」
なんて子供っぽいことを口にしたので、思わず笑ってしまう。
「わからないけど、見つけないまま消えちゃうと、きっと地縛霊とかになるんだよ。そしたら今よりももっとつらいかもよ?」
「んだよ。茉奈果は俺の味方じゃないのかよ」
「味方だよ。私はずっと前から公志の味方。だから、ちゃんと向き合おうよ。私のためでもあるんだよ?」
さっき顔に浮かべていた厳しい表情もなく、不思議そうに尋ねてくる。
「なんで茉奈果のためなんだ?」
「公志の役に立てたことが、私の力になるの。私だってがんばってるんだから、公志もがんばって」
よくわからない励ましも、公志には効果があったらしく自分の髪をくしゃくしゃとかいてから、「ったく……」と、あきらめたような笑みを浮かべた。
「その調子」
「さっきの声の相手が誰なのかわかってるんだろ? どんなことを聞いても驚くなよ」
唇をとがらせた公志に大きくうなずく。
ラジオは光を落とし、部屋は暗闇に包まれた。笑顔がようやくほどけた私は、聞こえないようにため息を落とした。公志の言うように、さっきのラジオからの声を知っていたから。
あれは、武田さんの声だった……。
眠気が訪れた私が電気を消したとたん、オレンジの光が部屋を照らした。
「公志……」
まるで消えそうなほど弱い光が、ラジオの周りにゆらめいている。
「やっとか……」
安堵のため息を漏らした公志が、ゆっくりと上半身を起こした。
ジジ ザザザ ジジジジ
いつもより大きな雑音が聴こえ、徐々に小さくなっていく。無音になったラジオは、まぶしいほどの光を放っている。やがて、声が耳に届いた。
《なんてことをしてしまったの……》
隣を見ると、公志の目が大きく見開かれていた。すぐに次の声が聴こえる。
《自分が嫌で仕方ない。どうして私は、あんなことを……》
目が離せないまま、私は「公志」と呼ぶ。けれど彼は、
「これは関係ないだろう」
顔を背けてそう言った。
「でも、この声……」
「茉奈果。この声は関係ないんだ」
そう言って私を制し、公志はゆっくりと立ち上がった。ラジオからは再び雑音が聴こえ出している。
「ラジオから聴こえる声がヒントなんでしょう。だったら——」
「違うって言ってるだろう!」
大きな声に驚くよりも、急な公志の変化に戸惑った。こんなふうに声を荒げる彼は見たことがなかったから。
気まずそうに公志は「だから……」ボリュームを絞って続けた。
「この声は気にしなくていいんだよ」
「……ダメだよ」
今にも背中を向けそうな公志に私は言った。
「ちゃんと向き合って、探し物を見つけなくちゃ。そうしないと、きちんと旅立つことができないでしょう?」
ムスッとした顔の公志は、
「どうせ消えるなら同じだろ」
なんて子供っぽいことを口にしたので、思わず笑ってしまう。
「わからないけど、見つけないまま消えちゃうと、きっと地縛霊とかになるんだよ。そしたら今よりももっとつらいかもよ?」
「んだよ。茉奈果は俺の味方じゃないのかよ」
「味方だよ。私はずっと前から公志の味方。だから、ちゃんと向き合おうよ。私のためでもあるんだよ?」
さっき顔に浮かべていた厳しい表情もなく、不思議そうに尋ねてくる。
「なんで茉奈果のためなんだ?」
「公志の役に立てたことが、私の力になるの。私だってがんばってるんだから、公志もがんばって」
よくわからない励ましも、公志には効果があったらしく自分の髪をくしゃくしゃとかいてから、「ったく……」と、あきらめたような笑みを浮かべた。
「その調子」
「さっきの声の相手が誰なのかわかってるんだろ? どんなことを聞いても驚くなよ」
唇をとがらせた公志に大きくうなずく。
ラジオは光を落とし、部屋は暗闇に包まれた。笑顔がようやくほどけた私は、聞こえないようにため息を落とした。公志の言うように、さっきのラジオからの声を知っていたから。
あれは、武田さんの声だった……。