「ただいま」

部屋に戻ると、公志の姿は、朝家を出る時よりもさらに薄くなっていた。身体の輪郭がぼやけていて、寝ている絨毯との境界線があいまいになっている。

「大丈夫?」

声をかけると、公志はゆっくりと薄目を開けた。私の姿を確認すると口の端を持ち上げて笑った。

「お帰り。今、何時?」

「午後九時を過ぎたところだよ。具合、すごく悪そう」

「もう少しで思い出せそうなんだよ」

私の質問に答えずそう言った公志。

「本当?」

膝を折って顔をのぞき込むと、軽くうなずいて公志は目を閉じた。

「探し物は、茉奈果に関することだって思い込んでいたんだ。だけど、それだけじゃない気がしてきた。きっと、いろんな場所に置いてきちゃった物があって、それを探しているのかも」

答えを探るように話す公志の隣に座り、私もベッドにもたれて膝を抱えた。

「思い出せるといいね」

「ああ。でも、思い出せなくてもこの一カ月ちょっとは楽しかったよ」

「お別れのセリフみたいなこと言うなんて、公志らしくないよ」

——泣いちゃダメ。

唇をかんで軽い口調で言うと、

「だな」

ふふ、と笑う公志。

しばらく沈黙が訪れて、まるで公志は眠ってしまったように見えた。

体力がほとんど残っていないのだろうな……。

そのままの姿勢で明日のテスト勉強をはじめたけど、気になって何度も公志の顔を見てしまう。

不思議な現象も、残された時間はあと少ししかない。

公志が思い出せない探し物。

笑顔で見送るためにもその存在を思い出したい。