「最悪……」
机に突っ伏す私に、公志はなにも言わない。
病院そばにあるチェーン店の喫茶店で作戦会議。が、さっき言われた言葉にリピート攻撃されているほど打ちのめされている私からはため息しか出ない。
「あんなふうに言われるとは思わなかった」
つぶやくような声に、向かい側に座った公志はチラッと私を見てから肩をすくめた。
「公志だってなんか言ってくれればよかったのに」
そうだよ。ずっと黙ってるだけで、ちっとも助けてくれないんだから。
よくよく考えると腹が立ってきた。
「だいたい、ピンチになった時こそアドバイスくれなくちゃ」
手つかずのアイスコーヒーをストローで混ぜながら文句を言う私に、公志は「シッ」と口に手を当てた。
「なにが『シッ』よ。調査してきたんなら、例えば静佳ちゃんの好きな食べ物とかわからないの?」
そこまで言ってから、店内に漂う空気がおかしいことに気づいた。誰もが動きを止めて私をじっと見てくる。
そうだ、公志は周りの人からは見えないんだった……。
向こう側に座っているカップルがヒソヒソと私を見て話をしている。
やばい……。顔を伏せる私に、「アホか」と公志が言うのでギロッとにらんでしまう。これじゃあますますおかしな人だと思われちゃう。
「いい加減慣れろよな。スマホを耳に当てて会話しているフリでもしたら?」
それはいいアイデアと、カバンからスマホを取り出し、
「ごめんよく聞こえなかったぁ」
と、いかにも電話をずっとしていたフリをすると、ようやくカップルが『なんだ』という顔をしてくれたので安心した。
「ていうかさ、これからどうするのよ」
ヒソヒソ声でまだ会話しているフリで尋ねると、
「さあ」 やる気のない返事に笑顔のまま頭に血がのぼるのがわかった。
「さあ、じゃないでしょう?」
怒りを抑えながら楽しい会話をしているように言うと、公志は呆れた顔をした。
「失敗したのは茉奈果だろ。ちゃんと考えて行動してくれよ」
「え、私? 私のせいなの!?」
思わず立ち上がった私に周りがギョッとした顔をした。慌てて座って耳に当てたスマホはそのままに、公志をにらむ。
「なんで私のせいにするのさ。公志のためにやってることでしょう?」
「恩着せがましい言い方だな」
「それってどういう意味?」
「静佳と接触できるのは茉奈果だけ、って意味」
悪びれた様子もなく言う公志が信じられない。普段あまり怒りを表に出さないせいか、久しぶりに感情があふれ出している。
「私ひとりだけでできるわけないでしょ。平均点なんだからムリに決まってるもん」
「あのさぁ」
公志がおもしろくない時に出す口ぐせが出て、ハッとする。
「前から思ってたけどさ、“まんなかまなか”を言い訳にするのはやめろよ」
「なによ……公志になにがわかるのよ!」
怒りは言葉になって公志へと向かっていく。ひょいとかわすように立ち上がった公志が、鼻から息を吐き出した。
「ちょっとお互いに落ち着いたほうがいいな」
そう言い捨てて歩いていく公志に、「待ってよ」と、立ち上がる私。
振り返りもせず、公志は壁をすり抜けるといなくなった。
ふと視線を感じて周りを見渡すと、
「あ……」
もれなくすべてのお客さんが私を見ていた。冷たい視線に、頭にのぼった血が一気に下がる。
「すみません、あの……演劇部でして……」
モゴモゴと言い訳をして荷物を持ってレジへ行き、逃げるように外へ出た。
生暖かい空気にさらされながらトボトボと交差点を渡る。気持ちの重さが足にもきているようで、ちっとも前に進まない。さっきとおった駅の階段に、崩れるように座ると頭上に白い半月が浮かんでいた。
どれだけあたりを探しても、公志の姿はなかった。
机に突っ伏す私に、公志はなにも言わない。
病院そばにあるチェーン店の喫茶店で作戦会議。が、さっき言われた言葉にリピート攻撃されているほど打ちのめされている私からはため息しか出ない。
「あんなふうに言われるとは思わなかった」
つぶやくような声に、向かい側に座った公志はチラッと私を見てから肩をすくめた。
「公志だってなんか言ってくれればよかったのに」
そうだよ。ずっと黙ってるだけで、ちっとも助けてくれないんだから。
よくよく考えると腹が立ってきた。
「だいたい、ピンチになった時こそアドバイスくれなくちゃ」
手つかずのアイスコーヒーをストローで混ぜながら文句を言う私に、公志は「シッ」と口に手を当てた。
「なにが『シッ』よ。調査してきたんなら、例えば静佳ちゃんの好きな食べ物とかわからないの?」
そこまで言ってから、店内に漂う空気がおかしいことに気づいた。誰もが動きを止めて私をじっと見てくる。
そうだ、公志は周りの人からは見えないんだった……。
向こう側に座っているカップルがヒソヒソと私を見て話をしている。
やばい……。顔を伏せる私に、「アホか」と公志が言うのでギロッとにらんでしまう。これじゃあますますおかしな人だと思われちゃう。
「いい加減慣れろよな。スマホを耳に当てて会話しているフリでもしたら?」
それはいいアイデアと、カバンからスマホを取り出し、
「ごめんよく聞こえなかったぁ」
と、いかにも電話をずっとしていたフリをすると、ようやくカップルが『なんだ』という顔をしてくれたので安心した。
「ていうかさ、これからどうするのよ」
ヒソヒソ声でまだ会話しているフリで尋ねると、
「さあ」 やる気のない返事に笑顔のまま頭に血がのぼるのがわかった。
「さあ、じゃないでしょう?」
怒りを抑えながら楽しい会話をしているように言うと、公志は呆れた顔をした。
「失敗したのは茉奈果だろ。ちゃんと考えて行動してくれよ」
「え、私? 私のせいなの!?」
思わず立ち上がった私に周りがギョッとした顔をした。慌てて座って耳に当てたスマホはそのままに、公志をにらむ。
「なんで私のせいにするのさ。公志のためにやってることでしょう?」
「恩着せがましい言い方だな」
「それってどういう意味?」
「静佳と接触できるのは茉奈果だけ、って意味」
悪びれた様子もなく言う公志が信じられない。普段あまり怒りを表に出さないせいか、久しぶりに感情があふれ出している。
「私ひとりだけでできるわけないでしょ。平均点なんだからムリに決まってるもん」
「あのさぁ」
公志がおもしろくない時に出す口ぐせが出て、ハッとする。
「前から思ってたけどさ、“まんなかまなか”を言い訳にするのはやめろよ」
「なによ……公志になにがわかるのよ!」
怒りは言葉になって公志へと向かっていく。ひょいとかわすように立ち上がった公志が、鼻から息を吐き出した。
「ちょっとお互いに落ち着いたほうがいいな」
そう言い捨てて歩いていく公志に、「待ってよ」と、立ち上がる私。
振り返りもせず、公志は壁をすり抜けるといなくなった。
ふと視線を感じて周りを見渡すと、
「あ……」
もれなくすべてのお客さんが私を見ていた。冷たい視線に、頭にのぼった血が一気に下がる。
「すみません、あの……演劇部でして……」
モゴモゴと言い訳をして荷物を持ってレジへ行き、逃げるように外へ出た。
生暖かい空気にさらされながらトボトボと交差点を渡る。気持ちの重さが足にもきているようで、ちっとも前に進まない。さっきとおった駅の階段に、崩れるように座ると頭上に白い半月が浮かんでいた。
どれだけあたりを探しても、公志の姿はなかった。