「ただの世間話だよ」

手を横に振る真梨に、

「だとしても、朝からそんな話題はやめてよね。なんにも考えてないもん」

と文句を言ってから、まだ半分も登校してきていない教室を見回した。雨の日特有の湿気を含んだにおいが、室内を浸しているよう。

「なりたい職業とかないの?」

長い髪をひとつに結わえた真梨が首をかしげる。

「ないない。一応進学はするつもりだけど、真梨と違って選択肢も少ないもん」

ぷう、と頬を膨らませると、真梨は肩をすくめた。
真梨は高校に入ってからの友達。成績もいいし、体育だって無難にこなしている。
見た目も私より身長が高く、足も長い。それに引き換え私は……。

「朝から暗い話題だな」

うしろからかけられる声に一瞬ドキッとしながらも、すぐに声の主をにらみつける。

「うるさいなあ。勝手に話に入ってこないでよ」

「おお怖い怖い」

おどけながら右の席に腰をおろしたのは、鬼塚公志。