家につく直前に降りはじめた雨は、あっという間に空を黒色に変えた。
部屋に戻ると、公志は電気もつけずに絨毯で仰向けになっていた。
そんなに具合が悪いの?
足がすくんだ私に、公志はひょいと上半身を起こすと、
「お、早かったな」
と、いつもの口調で言ってくれたのでホッとする。
「勝手に机のなかとか見てないでしょうね」
電気をつけてからベッドに座ると、「見るかよ」と答えている。
ていうか、公志と部屋でふたりきりなんていつ以来だろう? たぶん、小学三年生くらいが最後?
だんだんとお互いに世界が広がり、同性の友達が増え出した私たちは、いつしか遊ばなくなっていったっけ……。
急にふたりきりなのを意識してしまう。落ち着け、と言い聞かせて「でさ」と軽い口調を心がけた。
「探し物に心当たりはあったの?」
公志には私が戻ってくるまで、ヒントになるようなことを考えてもらっていた。
「心当たりなし」
「全然?」
「うん、全然。まいったよなぁ」
少しもまいってなさそうにぼやくと、公志はラジオを指さした。
「ここから俺の声が聴こえたって?」
「そう、夜遅くに急に電源が入ってね。ビックリしてたら聴こえてきたの」
「なるほど」
あごに手をやった公志が、
「今のところ、ヒントはこれだけか」
とつぶやいた。
たしかに、とうなずく。このラジオが私と公志の世界をつないでくれたのなら、またなにか聴こえるかもしれない。
同じことを思ったのだろう、公志も「じゃあ深夜までお預けだな」と立ち上がった。
「どこか行くの?」
「少しだけ外出してくる。すぐ戻ってくるから、寝て待ってて」
「あ、うん……」
そう言うと、公志はドアをすり抜けていなくなってしまった。
——武田さんに会いに行ったのかもしれない。
どこに行くか聞けばいいのに、それが怖くてできない。昔はすべてを話せてすべてをわかってもらえていたのに、今では話せない秘密を抱えている。
笑ってふざけ合うたびに、ウソのコーティングが何重にも塗られていった気持ち。ひとりになるとそのコーティングは簡単にはがれ、私を苦しめる。
公志が死んだ今でも、なにひとつ変わっていないんだよね……。
落ち込んでいると、ドアがノックされた。開けるとお母さんが不審そうに部屋のなかを見渡している。
「どうしたの?」
「あ、ご飯できたから呼びにきたんだけど……。茉奈果、今ひとり言を言ってたの?」
「え?」
聞かれてたんだと青ざめた。
「違うよ。電話……そう、友達と電話してたんだよ」
あはは、と笑うとお母さんは肩をすくめて階段を降りていく。公志の姿や声は、誰にもわからないのだから気をつけないと。
心のメモに書き記して、私は部屋を出た。
部屋に戻ると、公志は電気もつけずに絨毯で仰向けになっていた。
そんなに具合が悪いの?
足がすくんだ私に、公志はひょいと上半身を起こすと、
「お、早かったな」
と、いつもの口調で言ってくれたのでホッとする。
「勝手に机のなかとか見てないでしょうね」
電気をつけてからベッドに座ると、「見るかよ」と答えている。
ていうか、公志と部屋でふたりきりなんていつ以来だろう? たぶん、小学三年生くらいが最後?
だんだんとお互いに世界が広がり、同性の友達が増え出した私たちは、いつしか遊ばなくなっていったっけ……。
急にふたりきりなのを意識してしまう。落ち着け、と言い聞かせて「でさ」と軽い口調を心がけた。
「探し物に心当たりはあったの?」
公志には私が戻ってくるまで、ヒントになるようなことを考えてもらっていた。
「心当たりなし」
「全然?」
「うん、全然。まいったよなぁ」
少しもまいってなさそうにぼやくと、公志はラジオを指さした。
「ここから俺の声が聴こえたって?」
「そう、夜遅くに急に電源が入ってね。ビックリしてたら聴こえてきたの」
「なるほど」
あごに手をやった公志が、
「今のところ、ヒントはこれだけか」
とつぶやいた。
たしかに、とうなずく。このラジオが私と公志の世界をつないでくれたのなら、またなにか聴こえるかもしれない。
同じことを思ったのだろう、公志も「じゃあ深夜までお預けだな」と立ち上がった。
「どこか行くの?」
「少しだけ外出してくる。すぐ戻ってくるから、寝て待ってて」
「あ、うん……」
そう言うと、公志はドアをすり抜けていなくなってしまった。
——武田さんに会いに行ったのかもしれない。
どこに行くか聞けばいいのに、それが怖くてできない。昔はすべてを話せてすべてをわかってもらえていたのに、今では話せない秘密を抱えている。
笑ってふざけ合うたびに、ウソのコーティングが何重にも塗られていった気持ち。ひとりになるとそのコーティングは簡単にはがれ、私を苦しめる。
公志が死んだ今でも、なにひとつ変わっていないんだよね……。
落ち込んでいると、ドアがノックされた。開けるとお母さんが不審そうに部屋のなかを見渡している。
「どうしたの?」
「あ、ご飯できたから呼びにきたんだけど……。茉奈果、今ひとり言を言ってたの?」
「え?」
聞かれてたんだと青ざめた。
「違うよ。電話……そう、友達と電話してたんだよ」
あはは、と笑うとお母さんは肩をすくめて階段を降りていく。公志の姿や声は、誰にもわからないのだから気をつけないと。
心のメモに書き記して、私は部屋を出た。