学校で起きたことを話している間、千恵ちゃんはずっと新聞を読んでいた。もちろんサッカーの記事だ。そして、話し終わった私にたったひとこと、
「そんなこともあるさね」
とだけ言った。
「ちょっと千恵ちゃん、ちゃんと聞いてた?」
そっけない反応に不満を口にすると、めんどくさそうに新聞を折りたたんでから老眼鏡を外す。
「公志があんたの前に現れたってんだら?」
「そうだよ。不思議じゃない?」
「あのラジオにはそういう力があるって前にも言ったじゃないか。あたしがウソをついていないことが証明されたってことやて」
満足そうにうなずいた千恵ちゃんは足を組む。
「もっと驚いてくれてもいいのになぁ。こんなのアニメのなかでしか起きないものでしょう?」
公志との再会に、まだ興奮冷めやらぬ私。だってもう二度と会えないと思っていた公志と再会できた。奇跡と呼ぶべきあの時間は、あまりにも幸せだった。
「肝心の公志はどこにいるんだい? あたしには見えないんだけど」
キョロキョロとあたりを見回しながらタバコに火をつける千恵ちゃんに、
「公志は今、うちで寝てるの」
と、答えた。
「あんたの家で? そりゃまあハレンチだこと」
ヒューと口笛を短く吹いて茶化してくるので、慌てて手を横に振った。
「そういう意味じゃないよ。本当に身体がだるいみたいで、少し動いただけで疲れちゃうんだって。それに、不思議なラジオも見たいって言うから……」
最後はモゴモゴと口ごもってしまう。そんな私に千恵ちゃんは、カッカッと笑いながら白い煙を吐いた。
「わかってるて、本当に茉奈果はウブな子だね。それに、公志は死んだんだから、変なことはできんだろうし」
「だけど存在してるの」
そう信じていないと、また見えなくなってしまう。
「せいぜいがんばりなさいな」
力のこもった私の言葉にも、千恵ちゃんはさらりと答える。
「私なんかで役に立つのかなぁ。今はそれが心配」
公志の力になれるのは、私ではないと思っているのが正直なところ。平均点の私よりも、武田さんのほうがきっと、理論的に探し物の在り処が推測できるだろうし……。
バンッと机を叩く音がして、
「ひゃっ」
と、思わず悲鳴をあげてしまう。見ると、片眉を上げた千恵ちゃんの右手には、丸めた新聞紙が握られている。
「ちょっと、びっくりするじゃない!」
抗議する私に千恵ちゃんは「ふん」と鼻から息を吐いた。
「あんたは贅沢だよ」
「どういう意味?」
「公志が死んでピーピー泣いてたと思ったら、今度は現れたのにもかかわらず弱気な発言して」
「だって……」
「まずは自分のベストを尽くすこと。それもしないで自己防衛してなんの意味があるんだい? 全力でやって、結果が平均点ならそれでいいじゃないか。公志だって、そんなこと求めていないよ」
ぐうの音も出ない正論に、肩を落とした。
だけど、一生懸命がんばっても結果が出なかった時のことを想像すると、怖くてたまらない。公志をがっかりさせたくないんだ……。
「なあ茉奈果」
やさしい声に変わった千恵ちゃんが、椅子にもたれた。
「公志は今、どんな気持ちだと思う? きっとあんた以上に不安なんじゃないかね?」
そうかもしれない。
死んでもなお、この世に残っている公志。探し物がわからなくて、次になにをしていいのかもわからない。
私だったら、泣いて動けずにいたかもしれない。
「茉奈果の前に現れたのは、あんたに解決を求めているんじゃない。ただ、茉奈果に会いたかったからだよ」
「え?」
一瞬で顔が赤くなる私に、千恵ちゃんはニヤリと笑った。
「気心の知れた幼なじみとしてね」
「もう、千恵ちゃんキライ」
違う意味で顔が赤くなる。ほんと、なんて意地悪なんだろう。
だけど少しだけ、不安が勇気に変わったような気がした。
「そんなこともあるさね」
とだけ言った。
「ちょっと千恵ちゃん、ちゃんと聞いてた?」
そっけない反応に不満を口にすると、めんどくさそうに新聞を折りたたんでから老眼鏡を外す。
「公志があんたの前に現れたってんだら?」
「そうだよ。不思議じゃない?」
「あのラジオにはそういう力があるって前にも言ったじゃないか。あたしがウソをついていないことが証明されたってことやて」
満足そうにうなずいた千恵ちゃんは足を組む。
「もっと驚いてくれてもいいのになぁ。こんなのアニメのなかでしか起きないものでしょう?」
公志との再会に、まだ興奮冷めやらぬ私。だってもう二度と会えないと思っていた公志と再会できた。奇跡と呼ぶべきあの時間は、あまりにも幸せだった。
「肝心の公志はどこにいるんだい? あたしには見えないんだけど」
キョロキョロとあたりを見回しながらタバコに火をつける千恵ちゃんに、
「公志は今、うちで寝てるの」
と、答えた。
「あんたの家で? そりゃまあハレンチだこと」
ヒューと口笛を短く吹いて茶化してくるので、慌てて手を横に振った。
「そういう意味じゃないよ。本当に身体がだるいみたいで、少し動いただけで疲れちゃうんだって。それに、不思議なラジオも見たいって言うから……」
最後はモゴモゴと口ごもってしまう。そんな私に千恵ちゃんは、カッカッと笑いながら白い煙を吐いた。
「わかってるて、本当に茉奈果はウブな子だね。それに、公志は死んだんだから、変なことはできんだろうし」
「だけど存在してるの」
そう信じていないと、また見えなくなってしまう。
「せいぜいがんばりなさいな」
力のこもった私の言葉にも、千恵ちゃんはさらりと答える。
「私なんかで役に立つのかなぁ。今はそれが心配」
公志の力になれるのは、私ではないと思っているのが正直なところ。平均点の私よりも、武田さんのほうがきっと、理論的に探し物の在り処が推測できるだろうし……。
バンッと机を叩く音がして、
「ひゃっ」
と、思わず悲鳴をあげてしまう。見ると、片眉を上げた千恵ちゃんの右手には、丸めた新聞紙が握られている。
「ちょっと、びっくりするじゃない!」
抗議する私に千恵ちゃんは「ふん」と鼻から息を吐いた。
「あんたは贅沢だよ」
「どういう意味?」
「公志が死んでピーピー泣いてたと思ったら、今度は現れたのにもかかわらず弱気な発言して」
「だって……」
「まずは自分のベストを尽くすこと。それもしないで自己防衛してなんの意味があるんだい? 全力でやって、結果が平均点ならそれでいいじゃないか。公志だって、そんなこと求めていないよ」
ぐうの音も出ない正論に、肩を落とした。
だけど、一生懸命がんばっても結果が出なかった時のことを想像すると、怖くてたまらない。公志をがっかりさせたくないんだ……。
「なあ茉奈果」
やさしい声に変わった千恵ちゃんが、椅子にもたれた。
「公志は今、どんな気持ちだと思う? きっとあんた以上に不安なんじゃないかね?」
そうかもしれない。
死んでもなお、この世に残っている公志。探し物がわからなくて、次になにをしていいのかもわからない。
私だったら、泣いて動けずにいたかもしれない。
「茉奈果の前に現れたのは、あんたに解決を求めているんじゃない。ただ、茉奈果に会いたかったからだよ」
「え?」
一瞬で顔が赤くなる私に、千恵ちゃんはニヤリと笑った。
「気心の知れた幼なじみとしてね」
「もう、千恵ちゃんキライ」
違う意味で顔が赤くなる。ほんと、なんて意地悪なんだろう。
だけど少しだけ、不安が勇気に変わったような気がした。