部屋について重いラジオをおろしたとたん、スマホが鳴り出した。ポケットから取り出して画面を見ると、知らない番号が表示されていた。

もちろん知らない人からの電話には出ない。放っておくとあきらめたらしく、音が消えた。
スマホの時計を見ると、夕方になってしまっている。病み上がりに重労働はキツかったようで、身体が重い。雨で濡れた髪をタオルで乾かしながらついでに顔も拭くと、ホコリのせいで灰色に染まっている。

持ってきたラジオをとりあえずカラーボックスの上に置き、ウエットティッシュで拭くと側面にロゴが現れた。電源らしいボタンと、丸いつまみが並んでいる。

「これがラジオ?」

疑いながらコンセントに差し、電源と思わしきボタンを押す。が、反応がない。も う一度押しても同じで、うんともすんとも言わない。

「なによ、壊れているってこと?」

さらに疲れが押しよせてベッドに腰をおろすと、スマホが再び鳴り出した。
さっきと同じ番号に思える。迷っているうちに音はやんだけれど、すぐにまた鳴り 出したのであきらめて通話ボタンを押すことにした。

「もしもし?」

すぐに、

『あ……』

と声が聞こえた。

自分でかけたくせに戸惑っているみたい。違和感を感じていると、呼吸する音が何度か聞こえた後、

『……高橋さんですか?』

おそるおそる尋ねる声がする。

「はい」

と答えた瞬間、声の主が誰なのか思い当たった。

声は……武田さんだ。
耳からスマホを離すと、衝動的に通話を切ってしまった。一気に胸が鼓動を速くし ている。
……どうして私の番号を知っているの? ひょっとして、公志に聞いたの?
暗くなったスマホの画面がまた光り、武田さんからの着信を知らせた。