変な日本語に眉をひそめると、千恵ちゃんは炊飯器を乱暴に床に置いてから、箱型 の天板に積もったホコリを手で払った。

「これ、なあに?」

真っ黒で三十センチくらいの箱に丸いつまみがいくつもついている。尻尾みたいに生えているコードの先にコンセントがついているから、電化製品であることは間違いないだろう。

「これはラジオやて」

「へ? ラジオって、あのラジオのこと?」

私が知っているラジオは、携帯音楽プレイヤーについていたり車のオーディオにつ いていたりするやつ。こんなに大きくはない。

「これは不思議なラジオでね。もうこの家にはいないと思っていたんだけどねぇ」

愛おしそうになでる千恵ちゃんの目が、見たこともないほどやさしくて戸惑う。
すると千恵ちゃんは

「そうだ」

と、私を見た。

「茉奈果にこれをあげる」

「え? いらないよ。ラジオならスマホでも聴けるし」

「遠慮しなさんな」

遠慮したわけじゃなくて、こんな大きなものを持って帰りたくないわけで……。
だけど千恵ちゃんはすっかり自分の案に乗っているようで、

「さ、もう帰りなさい。忘れずに持ち帰るんだよ」

と、居間に戻ってしまう。

「待ってよ。私、本当に――」

「雨に濡らすんじゃないよ。ゴミ袋にでも入れていきなさい」

そこまで言って、千恵ちゃんは居間の戸をピシャリと閉めてしまった。

黒い物体をじっと見つめてため息。まだ降り続く雨のなか、持って帰るなんて悲劇でしかない。
こんな日曜日になるんだったらこなきゃよかった。