咳き込みながら何回も階段を往復している間に、玄関先は段ボールで埋め尽くされてしまった。重い本といくつかの電化製品を運んだだけで、体力ゲージは残り少なくなってしまい、段ボールにもたれてあえぐ私。

椅子に座ってまた新聞を読んでいた千恵ちゃんが、

「もう終わりかい?」

と言ってくるので、何度もうなずいてギブアップ宣言をする。

「しょうがない子だねぇ」

よっこいしょ、と立ち上がった千恵ちゃんはやっぱり杖をついていた。私の視線に気づいたのか、

「ああ、これ?」

と杖を悔しそうに見やった。

「あたしはこんなのなくても大丈夫なんだけどね、蛍さんが使えってさ。まぁ、あの子の頼みなら仕方なく聞いてやってるんやて」

「足、大丈夫なの?」

「孫に心配なんかされたくないね」

そっけなく言う千恵ちゃんに下唇を出して不満を示した。もちろん気にした様子も ない千恵ちゃんに呆れつつ、

「これはどうするの?」

と指さし尋ねた。

廊下に積み重ねてあるのは、年代ものの炊飯器やら掃除機など。一瞥してから千恵ちゃんは、肩をすくめた。

「どれも新しいのを使ってるからねぇ。廃品回収にでも出しておくよ」

どうやらそれは自分でやってくれるらしい。息をつく私に近づいてきた千恵ちゃんは、

「おや」

と、炊飯器の下にある四角い物を見つめた。

「それがどうかしたの?」

「懐かしい。まだこの家にいてくれたんだねぇ」

「いてくれた?」