「さっき言ってた『関係ない』ってどういうこと?」

ジュースのプルトップを開けると、カシュッと軽やかな音を立てた。

「言葉のとおり。公志に恋人ができてしまったのは変えられない事実だとしても、それでキライになっちゃうのかい?」

すぐに首を横に振る私に、千恵ちゃんは続けた。

「誰かのものになったとたんに冷めるような想いだとしたら、それは恋とは呼ばないだろうねぇ」

なにも言えない私に、千恵ちゃんは二本目のタバコに火をつけた。くゆらせた煙の行方を眺めながら、千恵ちゃんは続ける。

「恋愛において大事なのは、相手じゃなく自分自身の気持ちだに。例え公志が人のものになっても、茉奈果が好きっていう気持ちを大事にしなさい」

「こんなに悲しくても?」

「自分のものにならない悲しさなんて、結局は"欲"だよ。あんたが好きならそれでいいじゃないか。見返りを求めなければ、苦しくなんかならないさ」

銀歯を見せてあっけらかんと言う千恵ちゃんはすごい。心に重く渦巻いていた感情に、ほんの少しだけ晴れ間が見えたような気がした。
でも……公志への想いは強すぎて、すぐにまた心に厚い雲が覆ってしまう。それでも、前向きな考え方に一瞬だけでもなれただけよしとしよう。

「あ、そうだ。お母さんから片づけを頼まれてたんだっけ」

見回しても、部屋は整然としているような気がするけど、これのどこを片づけるっていうの?