「私の?」

「そう。公志に恋人ができたからって関係ないじゃないか」

「ちょっと待って!」

千恵ちゃんの言葉に、思わず立ち上がってしまった。

「相手が公志だなんて、ひとことも言ってないでしょう?」

すると千恵ちゃんは、あからさまに呆れた顔になった。

「そんなの十年以上も前からわかってたことやて。茉奈果の顔にはいつも『公志が好き』って書いてあった」

真っ青になる、というのはまさにこのこと。
否定するためのウソを考えようとして、すぐにあきらめた。千恵ちゃんにその場限りのウソなんて通用しないことは、長年の経験で身に染みている。
力なく椅子に座ると、

「私って、そんなにわかりやすい人なの?」

と、尋ねる。

「まぁ、そうだろうね」

「それって周りのみんなにもそう思われているの? ひょっとして公志にまでバレてる?」

と、オロオロしていると、千恵ちゃんは

「カッカッカッ」

と水戸黄門みたいな笑いを放った。

「あたしが鋭いだけやて。それに公志は、昔から頭がいいほうじゃないだろう?」

「そんな言い方しなくてもいいでしょ。私よりは勉強できるし」

「失礼。あんたの好きな相手やったね」

どこまで本気かわからない受け答えが懐かしく思えた。
誰にも言えなかった気持ちを、口にしなくてもわかってくれた。そのことが、恥ずかしくて切なくて、うれしかった。