でも、たしかにあの頃は千恵ちゃんによく話を聞いてもらってたっけ。毒舌でけなされながらも、最後には笑顔になって帰った記憶がある。強がっていても千恵ちゃんには全部お見通しなんだよね……。
そっか、千恵ちゃんに話を聞いてほしかったから、私は今日、ここにきたくなったんだ。

理由を知って身体から力が抜けたと同時に、鼻のあたりがツンとして涙がぽろりとこぼれた。千恵ちゃんの前では昔から素直に泣いていた、と思い出す。

「ほら、飲みな」

男友達にでもすすめるように、千恵ちゃんが缶ジュースを渡してくれた。

「ありがと」

鼻をすすって涙が乾くのを待つ間、千恵ちゃんはなにも言わずに黙ってそばにいてくれた。忘れていた感覚がよみがえり、心が落ち着いていくよう。

「あの、ね……。好きな人がいるの。もうずっと前からなんだけど……」

言葉を区切り千恵ちゃんを見ると、聞いているのかいないのか、片肘をテーブルにのせて雨の落ちる庭を眺めている。

「その人にね、恋人ができたんだ」

ひとり言のように口を開くと、ああ、ダメだ。涙がまたあふれてくる。

「恋人になった人も、同じクラスの子でね。だから、どうしていいのかわからなくなったの……」

涙声になる私に、千恵ちゃんは細い指先を一本私に向けてくる。
え? と思っている私に、

「茉奈果の気持ちは?」

と、尋ねてきたので首をかしげた。