「元気そうでよかった」

「ふん。ちっともこなかったくせに。エラそうに言うんじゃないよ」

久しぶりに会っても、千恵ちゃんはなにも変わらず昔のまま。化粧もバッチリして いて、パーマのかかった髪はうしろから見ると若い子と間違われそうなくらい。

「ろくなニュースがないね。ジャイロががんばってるというのに、日本は物騒な事件ばかりやて」

見ると、千恵ちゃんが読んでいる新聞の一面に『ジャイロ磐田快勝』と大きな見出 しがあった。

ジャイロ磐田は、千恵ちゃんが昔から熱心に応援をしているサッカーチームだ。数年前までは年間シートまで毎年購入していたというから、相当なファンだろう。
昔はよく試合の勝敗について熱く語っていたけれど、ルールさえ理解できない私に教えることをあきらめたのか、途中からは言わなくなった。

バサッと新聞をたたんで吐くように言ってから、足を組んだ千恵ちゃん。

「で、なにがあったんだい?」

「え? なんで?」

まっすぐに見つめてくる瞳は、つけまつげに覆われている。

「茉奈果がここにくる時は、たいてい悩みがある時やて」

意地悪く言う口元から、またタバコの煙が生まれた。
ドキッとして過去を思い出す。そういえば……。

タバコをくわえながら「ふ」と笑みをこぼして、

「『まんなかまなか』ってからかわれていた頃は、しょっちゅう泣きついてきたくせに」

と腕を組む千恵ちゃんに思わずムッとする。

「泣きついてなんかいないもん」

「ピーピー泣いてたのを、あたしはしっかり覚えているけどね」

自分の祖母ながらなんて口が悪いんだろう、と呆れてしまう。