浜松八幡宮という神社の近くに千恵ちゃんの家はある。私の家からは歩いて十分、 自転車ならあっという間の距離だ。
昔ながらの造りの家に、今はひとりで住んでいる。小さい頃はよく遊びに行ったの に、中学生になってからは足が遠のいていた。会ったとしても、お正月やお盆などに 少し顔を合わせる程度だ。

久しぶりにきた千恵ちゃんの家は、建物だけじゃなく門の奥に見える庭さえも昔より小さく見える。傘をたたんでチャイムを鳴らすけれど、千恵ちゃんは出てきてくれない。

「千恵ちゃん、いないの?」

借りてきた鍵で戸を開けると、

「勝手に人の家に入るんじゃないよ!」

と、奥から怒号が飛んできたので安心したのと同時に、強気なキャラクターを思い出してため息が出た。久しぶりすぎてすっかり忘れていた。

「もう、いるなら出てよね」

文句を言いながら靴を脱いで廊下を進むと、年代ものの床板が悲鳴を上げる。

奥に進むと、古い家とは思えないほど原色だけで統一されている居間が迎えてくれた。壁は青、カーペットは緑、置いてある家電はどれも真っ赤。
窓側で黄色の椅子に座っていた千恵ちゃんが、老眼鏡をずらして私をにらんだ。

「なんだい茉奈果か。セールスマンかと思ったよ」

「なんだい、じゃないよ。それにしても、あいかわらずすごい色だね」

向かい側の椅子に腰かけ、部屋を見回すと目がチカチカしてくる。

「じいさんが亡くなってからは、ここはあたしの家だよ。どう使おうとあたしの勝手じゃないか」

テーブルに無造作に置いてあるタバコに火をつけると、深く吸って白い煙を逃がす。
ステンレス製の丸い灰皿のなかは、吸い殻でいっぱいだった。