千恵ちゃんというのは、近くに住んでいる私のおばあちゃんのことだ。
本名は千恵子だけど、昔から孫にも『おばあちゃん』とは呼ばせず、『千恵ちゃん』の呼び方でしか許可をしなかった。
実際、七十歳にしては若く見えるし、おじいちゃんが亡くなってからはどんどん派手になっているような気がする。
「おばあちゃんの家に?」
なぜか不思議そうなお母さんに軽くうなずくと、少し首をかしげてから、
「そうね。それもいいかもしれないわね」
と、戸棚に向かってなにかを探し始めた。
「千恵ちゃんの家、ずいぶん行ってないから怒られるかも」
「まさか。きっと喜ぶわよ」
そう言ってお母さんは私のもとへくると、手のひらに銀色の鍵を落とした。
「ちょうどよかったわ。おばあちゃんの家の片づけ担当はお父さんなのに、ちっとも 進んでないのよねぇ」
お母さんは、二階にある寝室のあたりをにらんで言う。今頃お父さんは、大イビキ で寝ているんだろうな。……って、ちょっと待って。
「それって私に片づけを頼むってこと?」
「もちろんよ」
当然のようにほほ笑むお母さんに「うう」とうなってみせる。
「掃除で疲れた後に、さらに片づけまでさせるの?」
「病み上がりなのに」
と、少しの抵抗を試みると、お母さんは唇をとがらせて渋々うなずいた。
「わかったわ。それじゃあ町内会の掃除は免除してあげる。その代わり、おばあちゃんの家の片づけよろしくね」
交渉成立ってところだろう。
「わかった。散歩がてら行ってくるよ」
やるべきことができたのがうれしくて、早く千恵ちゃんに会いたくなった。
気持ちが紛れれば、悲しい現実は薄らぐのかな……。
本名は千恵子だけど、昔から孫にも『おばあちゃん』とは呼ばせず、『千恵ちゃん』の呼び方でしか許可をしなかった。
実際、七十歳にしては若く見えるし、おじいちゃんが亡くなってからはどんどん派手になっているような気がする。
「おばあちゃんの家に?」
なぜか不思議そうなお母さんに軽くうなずくと、少し首をかしげてから、
「そうね。それもいいかもしれないわね」
と、戸棚に向かってなにかを探し始めた。
「千恵ちゃんの家、ずいぶん行ってないから怒られるかも」
「まさか。きっと喜ぶわよ」
そう言ってお母さんは私のもとへくると、手のひらに銀色の鍵を落とした。
「ちょうどよかったわ。おばあちゃんの家の片づけ担当はお父さんなのに、ちっとも 進んでないのよねぇ」
お母さんは、二階にある寝室のあたりをにらんで言う。今頃お父さんは、大イビキ で寝ているんだろうな。……って、ちょっと待って。
「それって私に片づけを頼むってこと?」
「もちろんよ」
当然のようにほほ笑むお母さんに「うう」とうなってみせる。
「掃除で疲れた後に、さらに片づけまでさせるの?」
「病み上がりなのに」
と、少しの抵抗を試みると、お母さんは唇をとがらせて渋々うなずいた。
「わかったわ。それじゃあ町内会の掃除は免除してあげる。その代わり、おばあちゃんの家の片づけよろしくね」
交渉成立ってところだろう。
「わかった。散歩がてら行ってくるよ」
やるべきことができたのがうれしくて、早く千恵ちゃんに会いたくなった。
気持ちが紛れれば、悲しい現実は薄らぐのかな……。