「え……」

公志はひとりではなかった。隣に私と同じ制服を着た女子が歩いている。横断歩道を歩いてくるその姿が、雨のカーテンから徐々に姿を現す。

「武田……さん?」

公志の隣にいるのは武田さんだった。ふたりが同じタイミングで私に気づき、足を止めた。交差点の途中で動かない私たちの向こうで、信号が点滅している。

「茉奈果か」

と、公志の口がそう動いたように感じた。

「公志……」

「ほら、赤になるぞ」

横断歩道を渡りきった公志の声に引っ張られるように、歩道に戻った。疑問符が頭のなかを埋め尽くしている。

どうして公志と武田さんが……? 用事って、武田さんとの用事だったの?
武田さんの表情は傘に隠れてよく見えない。公志の表情を見る勇気はない。

「なんで……」

言いかけて口を閉じた。きっと勘違いのはず。
その時の私には、まだそう思う余裕があった。公志と武田さんに、クラスが一緒という以外の接点があるとは思えなかったから。
そうだよ、偶然会っただけに決まっている……。

でも、公志が作る困った顔を見て、悪い予感が大きくなる。

「実は」

どんな時でも聞き取りやすい声。私の大好きな声。
その彼が今、私にいちばん聞きたくなかった言葉を言う。

「武田さんとつき合うことになったんだ」

同時にアスファルトを叩く音が、ひときわ強くなった気がした。
雨が、世界を覆い尽くした。