放課後のチャイムが鳴ると同時に、右にいる公志が勢いよく立ち上がった。夕方の放送は上級生が担当しているはずなのに、と見やる私に気づいた公志が、

「ちょっと用事」

と説明をした。別に約束しているわけじゃないのに、そんなひとことがうれしくてつい口元が緩んでしまう。
けれど、言葉になったのは、

「あ、そう」

というそっけないものだった。

「じゃあな」

慌てて出ていく公志に、冷たく対応した罪悪感が芽生える。好きになるほどに変に意識をしてしまって、素直になれない自分が嫌だった。

「茉奈果」

気づくと、真梨が私を振り返ってあごを横に動かして合図している。

「あ……」

示すほうを見ると、武田さんが荷物をまとめて立ち上がったところだった。

「ね、急いでいる感じしない?」

「う、うん」

うなずいている間にも武田さんは、公志の後を追うように出ていってしまった。
そっか、今日は木曜日だっけ……。

「怪しいよねぇ」

「怪しくないよ。ちょっと用事があるだけでしょ」

平然と言ってのけてから、私も机の上を片づける。

「気づいてた? 公志も木曜日だけは、やたら急いで帰っているんだよ」

「え?」