すると、自然と武田さんのうしろ姿が目に入った。彼女は分厚い本を読んでいるみたい。

《一年生のペンネーム"クルクマ"さんからいただきました。ええと、"鬼塚さんの 将来の夢はなんですか?"ということです》

公志の声に耳を集中させる。

《僕の夢は、昔っから変わってなくてですね――》

「ラジオのパーソナリティだよね」

小さくつぶやくと、すぐに《ラジオのパーソナリティです》と言う公志。
そうだよね、昔からずっと言っているもんね。
今でも、暇さえあればあのラジオ局の道路に面したオープンスタジオに自転車で行 っているみたいだし。昔、一度だけふたりで行ったことがあったっけ……。

あれ……?

またはじまりそうになる思い出のフィルムが途切れた。

「あ……」

思わず声を出したのは、武田さんが微動だにしていないから。背筋を伸ばして手元 で開いた本に目をやっているが、さっきから頭もページも動いていない。
その間にも公志は、次の生徒からのメッセージを紹介している。
ひょっとして、彼女も公志の放送を聴いている……?

朝の武田さんの言葉が、今さらながら脳裏に浮かんだ。

やっぱりあれは……ただの質問じゃなかったの?  
武田さんは公志のことが好きなの?
雨の音が、さっきよりもすぐ近くで聞こえた気がした。