《さて、続いての曲です――》

公志の声がして過去の思い出は消えた。
普段の話し声とは違ってさらに低音になる声は、聞き取りやすく耳になじむ。晴れ だって雨の日だって、心がすっと落ち着いて身体に溶け込むかのように心地いい。

生徒から評判がいいらしく、二年生になってからお昼の放送は公志が担当している。 たまに違う部員が担当することもあるけれど、公志の声の時のほうがみんな聞き入っている気がする。
今頃公志は、曲を流している間に慌ててお弁当を食べているんだろうな……。

好きな人の声は、目を閉じて聴いているだけで幸せ。そう、幸せだったのに……。
武田さんの質問の意図はなんだったのだろう? もしも武田さんも公志のことを好きだとしたら、どうすればいいのだろう?
 
悪い想像ばかりが頭に浮かんで、それでも告白して今の関係を壊す勇気なんて、私にはない。
幼なじみとして、公志のそばにいても疑われずにはしゃいでいられる今のほうが、 きっと幸せだろう。

「だったら……」

小さな声で何度も言い聞かせた決心をつぶやく。

「このままでいいよ」

フェードアウトする曲にかぶせて、公志の声がする。

《今週は"夢"というテーマで、みなさんからメッセージを募集しています》

その声を遮るように、すぐ近くの男子グループが雄たけびをあげた。

「それすげえな!」

「俺にも貸せよ」

公志の声が聴こえないじゃん。と、文句を言おうと顔を上げるけれど、そんなことできるはずもなく頬杖をついた。