それにしても、と前の席に座る武田さんを見る。彼女は、今日もひとりで授業中と同じ姿勢でお弁当を食べている。友達がいないわけじゃなく、食べ終わったら趣味の読書をしたいから、というのが真梨からの情報。

「さっきの話、気になるよねぇ」

私の視線に気づいたのか、真梨は獲物を見つけたライオンみたいにニヤリと笑う。

「そう?」

軽く応じながらも、本当はずっと今朝彼女に言われたことばかり考えている。
もちろん真梨には、あの後すぐに行われた取り調べにより、もれなく白状させられた。

「気になるよ。それって、優子が茉奈果と公志の関係を気にしているってことでしょう。つまり、優子は公志を好きってことにならない?」

「そう?」

同じ言葉でしか返せなかったのは、私が考えた案でいちばん当たってほしくなかったことだったから。だけど、やっぱりそう思ってしまうよね……。
私の落ち込みに気づいた様子もなく、真梨は上機嫌に口笛を短く吹いた。

「あの真面目な優子が恋をするなんてねぇ」

決めつけないでよ、と言いかけて口をつぐんだ。これじゃあ、自分の気持ちを教えてしまっているようなものだから。
自分の恋心は、これまで誰にも話をしたことがない。私と公志ではあまりにも違いすぎる、とわかっているから。