「ひとつ、質問をさせていただきたいのですが」

「質問? あ、はい。どうぞ」

廊下の向こうから真梨が歩いてくるのが見えた。眉をひそめて近づこうとする真梨 に軽く首を振ってみせると、気にしながらも教室に入っていく。
きっと後で質問攻めだろうな……。

「高橋さんは、鬼塚くんとどういうご関係ですか?」

え? と意識を目の前の武田さんに集中させると、さっきと変わらない表情でメガネ越しの瞳を私に向けている。

「どういう関係って……幼なじみ?」

「それだけのご関係ですか?」

かぶせるように尋ねる武田さんに、一瞬公志への片想いがバレているのかと思ったけれど、そんなはずはない。自分の気持ちを出さない訓練は、『まんなかまなか』と名づけられた日からずっと続けてきたから。

「それ以外にどんな関係があるっていうの? まあ、腐れ縁ってやつかな」

あはは、と笑ってみせても武田さんはニコリともせずに「腐れ縁」とつぶやく。それから再度、私の目をまっすぐに捕らえた。

「特別な感情はないのですか?」

ドキン、と大きく打った胸の音が武田さんに聞こえるわけもないのに、思わず息を呑んだ。

「ないよ、あるわけない」

大きな声で否定する私。すると、武田さんは初めて口の端を上げて笑みを浮かべた。

「それならば安心しました。ありがとうございました」