りんりん。喫茶店の入り口にぶら下げられた、重そうな鉄製の風鈴が鳴る。音の行方を確かめるように顔を上げると、水彩画みたいな空がどーん、と視界に入ってきた。夏の空は神様という名の芸術家が作り上げた幻想的な色をしていて、ビルの壁面や空を走る電線のくっきりした輪郭と対照的だ。まるで絵に描いた空にカメラで写したビルや電線を切り取り、貼り付けたよう。
「ねぇ、弘道さ。覚えてる?」
「覚えてるよ」
「うっそー。絶対何の事だかわかってない!」
「わかってるって。一周年記念だろ」
あたしのほうを見ないで、弘道が言う。ちょっと嬉しくなって、頬が火照る。
去年の夏休み前、放課後の教室だった。HRの直前に「今日、放課後残ってて。誰もいなくなるまで」ってメッセがスマホに来たから、沙有美や莉子としゃべりながら時間が過ぎるのを待っていた。きっと沙有美も莉子も、弘道の友達も知ってたんだろう。みんな次々と教室を出て行って、思ったよりも早くあたし達は二人きりになった。
廊下で沙有美達が耳をそばだてている気配をびんびん、感じたけど。
さすがに誰にも聞かれたくなかったんだろう。弘道は困った顔で言った。
「ちょっと耳貸して。もっと、こっち来て」
ふたりの身体がありえない距離まで近づく。あたしの心臓は少し触れたらぱつんとはじけそうで、バクバクうるさい鼓動が弘道に聞かれたら恥ずかしいな、とちょっと思った。耳たぶの先端に弘道の唇が一瞬、当たる。
「好きだから、付き合って」
弘道らしい率直な言葉から、あたしたちの関係はスタートした。
「ねぇ、弘道さ。覚えてる?」
「覚えてるよ」
「うっそー。絶対何の事だかわかってない!」
「わかってるって。一周年記念だろ」
あたしのほうを見ないで、弘道が言う。ちょっと嬉しくなって、頬が火照る。
去年の夏休み前、放課後の教室だった。HRの直前に「今日、放課後残ってて。誰もいなくなるまで」ってメッセがスマホに来たから、沙有美や莉子としゃべりながら時間が過ぎるのを待っていた。きっと沙有美も莉子も、弘道の友達も知ってたんだろう。みんな次々と教室を出て行って、思ったよりも早くあたし達は二人きりになった。
廊下で沙有美達が耳をそばだてている気配をびんびん、感じたけど。
さすがに誰にも聞かれたくなかったんだろう。弘道は困った顔で言った。
「ちょっと耳貸して。もっと、こっち来て」
ふたりの身体がありえない距離まで近づく。あたしの心臓は少し触れたらぱつんとはじけそうで、バクバクうるさい鼓動が弘道に聞かれたら恥ずかしいな、とちょっと思った。耳たぶの先端に弘道の唇が一瞬、当たる。
「好きだから、付き合って」
弘道らしい率直な言葉から、あたしたちの関係はスタートした。



