「何かもう、言うことなし。というか、あたしがコメントしちゃいけない気がする」

「俺は凹んでるよ。今夜これを親に見せるんだって思うと憂鬱になる」

「なんでよ」

「十番以内から落ちた」

「つっても十一位じゃん! あたしなんてやっと四十位台だっつーのに!!」

 コーヒーが運ばれてきて、ミルクを落としてかき混ぜる。墨色がクリーミーホワイトと溶け合って、ゆっくり回りながら焦がしたキャラメルの色に変わっていく。

「弘道はさぁ、絶対入るべき高校を間違えてるよ。もうひとつランク上のとこ狙えばよかったのに」

「だからその話は前もしただろ、本命は私立だったんだよ。でも受験直前になってオヤジが大阪に転勤になって、断ればたぶんクビで、単身赴任は嫌だからって自主退職してこっちで仕事探そうって話になったけど、今と同じ生活レベルは保証できないから私立はやめてくれって」

「でも結局お父さんの転勤の話はなくなって、クビにもならなくて、なのに、弘道はランクを落とした高校に通う事になったんでしょー? ちょっとした悲劇だよね」

「別に今の高校でいいよ。校則うるさくないし、授業の質も悪くないし、それに百合香にも会えたし」

 そんな事を照れもなく言うもんだから、言われたこっちが恥ずかしくなる。コーヒーを変な場所に入れてしまってむせて、弘道が驚いたように大丈夫か? と言った。

 弘道とは高一の時に同じクラスだった。二年から文理選択でクラスは分かれてしまったけれど、スマホも通話アプリもあるんだから学校の中でも外でもいつでも会える。違う学校の人と付き合っている莉子からすれば「百合香はほんと恵まれてるよ。、彼氏と壁一枚しか隔ててないなんて!」って、本当に羨ましい環境なんだそうだ。