去年の夏休み直前、弘道にコクられて付き合い出して、あたしは仲良し三人組で唯一の彼氏持ちになった。だからって焦って恋活に精を出すほど、沙有美も莉子も単純じゃないけれど、その年の冬には沙有美は同じ中学だった先輩と、莉子は文化祭で知り合った他校の男の子と付き合い始めた。そして高校生の恋愛にありがちな、数日単位でのスピード破局を迎えたり、束縛が激しいバカ男やDV男、あるいは盛りのついたサル男に引っかかる事もなく、見事に三人とも平和な付き合いが続いてるんだ。
「実質、今年が高校生活最後の夏なんだよ? テストも終わったんだしさぁ、百合香も莉子も、もっとはしゃぎなって!」
「たしかに来年の今頃は、うちの親は両方とも鬼と化してるだろうなぁ……」
テンションを上げようとした沙有美の隣で、莉子がうなだれている。
そう、今年が実質高校生活最後の夏。進学校に通うあたし達の来年の夏は、受験戦争真っただ中だ。十七歳のあたし達はもう、子どもじゃない。大人ははしゃいだりふざけたり、未来に期待したりしない。受験を終えて大学生活という束の間のモラトリアムを得た後、今度は就職活動という新たな戦争が待っている。その後は、楽しい事なんてきっとひとつもない。
実社会なんてしんどくてつまらないだけ。刑務所のような場所に決まってる。
ぶるる、テーブルの上で猫のキャラクターのカバーに包んだあたしのスマホがアプリ着信を告げる。メッセージは弘道から。「ついた。いつもんとこ」。スタンプはおろか絵文字のひとつすらない。アプリで繋がった最初の頃はこの人本当にあたしの事好きなの? と疑うほどだったけど、今はこれが弘道らしさなのだとよく知っている。
愛、だなんて十七歳だからまだよくわからないけれど。一年間付き合い続けて、あたしと弘道の間には何本もの糸できつく編んだような強い絆が芽生えている気がする。
「実質、今年が高校生活最後の夏なんだよ? テストも終わったんだしさぁ、百合香も莉子も、もっとはしゃぎなって!」
「たしかに来年の今頃は、うちの親は両方とも鬼と化してるだろうなぁ……」
テンションを上げようとした沙有美の隣で、莉子がうなだれている。
そう、今年が実質高校生活最後の夏。進学校に通うあたし達の来年の夏は、受験戦争真っただ中だ。十七歳のあたし達はもう、子どもじゃない。大人ははしゃいだりふざけたり、未来に期待したりしない。受験を終えて大学生活という束の間のモラトリアムを得た後、今度は就職活動という新たな戦争が待っている。その後は、楽しい事なんてきっとひとつもない。
実社会なんてしんどくてつまらないだけ。刑務所のような場所に決まってる。
ぶるる、テーブルの上で猫のキャラクターのカバーに包んだあたしのスマホがアプリ着信を告げる。メッセージは弘道から。「ついた。いつもんとこ」。スタンプはおろか絵文字のひとつすらない。アプリで繋がった最初の頃はこの人本当にあたしの事好きなの? と疑うほどだったけど、今はこれが弘道らしさなのだとよく知っている。
愛、だなんて十七歳だからまだよくわからないけれど。一年間付き合い続けて、あたしと弘道の間には何本もの糸できつく編んだような強い絆が芽生えている気がする。



