「莉子のお兄ちゃんの大学ってアレでしょ? アレ。あぁもう、あたしたちなんかが口にするのもためらうよ、超名門過ぎて」

「あたしたち、って勝手に一緒にしないで」

 んもー百合香の意地悪、と沙有美が半袖ブラウスに包まれた肩をちょんと突いてくる。沙有美はよく笑うしよくしゃべるし、よく目立つ。そのせいか、平均的な顔立ちにも関わらず、三年の先輩と付き合っているにも関わらず、よくコクられている。

「ひとりっ子の沙有美と弟と妹しかいない百合香には、優秀な年上のきょうだい持った人間の葛藤なんて一生わかんないよー。ったく親の愛は無条件です、なんて誰が言い出したのよ? 親の愛は条件付きに決まってんじゃん! どこの親もありのままの子どもを愛そうなんてしないよ。成績優秀な子どもや言う事をよく聞く子どもを愛するもんなんだって」

「愛、なんて白昼堂々、こんなとこでよく言えるねぇ」

 って言ったら、むくれた莉子にこうなったらもうヤケ食いしてやる、とシェイクの紙コップを奪われた。こんなとこ、というのは三人が週三で集まるチェーンのファーストフードの店。学校から徒歩八分、駅から徒歩一分、飲み物も食べ物も高校生のお財布に優しい価格。当然、平日の午後は中高生のグループだらけになる。