ぱちっと目が覚めるのと同時に、天井が違っている、と気付く。こんな木目の古臭い天井、あたしの部屋じゃない。いろいろな音がした。ジュウゥ、何かを焼く音。ざくざく、野菜か何かを刻む音。家の外からだろう、何を言っているのかまではわからないけれど話し声もする。それで、この家がありえないほど壁が薄いことに気付く。

 ベッドはなく、なぜか布団から――身体を起こす。元は白かったものがひどく汚れたんだろう、何日分もの汗がしみ込んだような、雑巾と同じ色の寝間着を着ていた。さっきの子と同じだ、と気付いて一瞬息が止まる。改めて部屋を見渡す。粗末な和室に敷かれた三組の布団。あたしの隣には小学生ぐらいの小さな子どもがふたり寝ていた。壁には古めかしい時計がかかっている。窓にはなぜか紙が貼ってある。装飾品らしいものが何ひとつない部屋の片隅に、赤い小花を散らした布で鏡部分を覆ったドレッサーが鎮座していた。

 ドレッサー! 鏡!! 気が付いて歩み寄る、というか飛びつく。

 鏡にかかった布を持ち上げると、さっきの女の子がいた。濃い眉に奥二重の目、薄い唇。どこもあたしじゃない。あたしはこんな顔じゃない。

 これは夢の続きだろうか。だって、別の人になっちゃうなんて、ありえない。

「千寿―! わりゃあいつまで寝とるんか!!」

 知らない声が、知らない名前を呼んだ。