広島のひいおじいちゃんが夕べ倒れたって話は、五人揃っての夕食の時に知った。今夜のおかずはハンバーグで、小三のあやめが小五の蓮斗にひときれミンチの塊を奪われて半ベソをかいていた、ちょうどその時。

「それが本人は元気で、家に帰る、支度するぞ、とか言い出すんですって。まぁ、元気って言っても、ボケてるんだけどね」

「それなのに危篤なのか?」

 お父さんが言う。お母さんとは六歳差、十九歳だったお母さんと出来ちゃった婚(その時お母さんのお腹に入ってたのはあたしなんだけど。だから百合香はお父さんとお母さんの愛のキューピットなのよ、なんて聞いてるこっちの耳が熱くなる事を今でもお母さんはたまに言う)したくらいだから、若い頃はイケメンだったらしいが、二重顎にビールっ腹、典型的な中年メタボ体型の今は残念ながらその面影はない。

「それなのに危篤なのよ。タイミングが悪いったらないわ。夏休みに入ってからだったらみんなで広島に行けたけど。とりあえずわたしだけでも帰らないと」

 イケメンから脱退したお父さんに比べると、こちらは今年まだ三十七歳、でもパッと見三十二、三、ひょっとしたら二十代でもイケるかも? という容姿のお母さん、今夜はちょっとだけ顔を曇らせている。

「お母さん、広島に行っちゃうのー? やだお兄ちゃん、またハンバーグ取ったぁ」

 甘えん坊のあやめが今にも涙腺を崩壊させそうにしているので、あたしは長女らしくそんな妹にお箸でちぎったハンバーグを分けてあげる。情けは人の為ならず。これはダイエットの一環。

「あやめがいい子にして、家の手伝いすればすぐ戻ってこれるよ。お母さんはひいおじいちゃんが危篤で大変なんだから、わがまま言っちゃ駄目だからね」

「きとく、って何―?」

「今にも死にそう、て事」

 ふーん、とあやめが小さな口にハンバーグを頬張りつつ首を傾げている。