中学の時も付き合ってる人はいたけれど、はっきりした告白なんてなくて、同じグループでつるんでるうちにいつのまにかそうなっちゃったって感じで、手を繋いだ事すらなくて、別の高校に進学したと同時に自然消滅してしまった。
だからコクられたのもデートしたのもキスしたのも、本当に何もかも、弘道が初めてだったんだ。
「今日、これからうち来る?」
十九時の閉店と同時に弘道と肩を並べて喫茶店を出る。夏のこの時間は外はまだ明るく、大通りに出るといよいよ人通りが多くて、どの店も本格的に賑わっていた。
「んー。今日は、やめとく」
弘道の家は各駅停車でここから二つ目が最寄り、駅から歩いて七分のデザイナーズマンション。会社勤めの両親は帰るのが遅く、ただひとりのきょうだいのお兄さんは京都の大学に進学していて、二年前から実質ひとりっ子みたいなものらしい。弘道の家には週に一度か二度、行っていた。大切なふたりきりの時間。
だけど今日は、なんとなく気が向かない。
「そか。じゃあいいや」
素っ気なく言われるとなんだか寂しくなって言い返そうとしたけれど、劇団員風の青年グループとすれ違って彼らの大声に臆してしまったように、言葉を飲み込んでしまう。代わりにシャツの端っこを何かを訴えるつもりで握りしめると、その手をそっと手を握ってくれた。
同じクラスの子に見つかって次の日冷やかされたら恥ずかしいから、学校の近くで手は繋がない、て言い出したのは弘道だったのに。自分から約束、破るなんて。
「じゃあ」
駅の改札前で握っていた手を解く。弘道は顔だけこっちに向けて、人波に埋もれそうな自動改札の方へ歩いていく。
ふいにちょっと息苦しくなって、胸の奥がきゅっと狭くなって、弘道の誘いを断った事を今さら後悔していた。
「じゃあね」
一瞬感じた寂しさを押し隠そうと、笑顔を作って手を振る。その後はくるりと背を向けて、家に近い北口へ続く小道を目指していた。
あたしと弘道は、あと何度こんなデートを重ねられるだろう。
ふたりはいつまで付き合っていられる? これからも一緒にいられるって保証はどこに? たぶん大学は別だ。弘道は大学こそ自分のレベルにあったところに行くだろうし、そこに受かるにはあたしの頭じゃとうてい無理。
そんな気持ち、沙有美にも莉子にも、もちろん弘道にも、絶対言えない。
だからコクられたのもデートしたのもキスしたのも、本当に何もかも、弘道が初めてだったんだ。
「今日、これからうち来る?」
十九時の閉店と同時に弘道と肩を並べて喫茶店を出る。夏のこの時間は外はまだ明るく、大通りに出るといよいよ人通りが多くて、どの店も本格的に賑わっていた。
「んー。今日は、やめとく」
弘道の家は各駅停車でここから二つ目が最寄り、駅から歩いて七分のデザイナーズマンション。会社勤めの両親は帰るのが遅く、ただひとりのきょうだいのお兄さんは京都の大学に進学していて、二年前から実質ひとりっ子みたいなものらしい。弘道の家には週に一度か二度、行っていた。大切なふたりきりの時間。
だけど今日は、なんとなく気が向かない。
「そか。じゃあいいや」
素っ気なく言われるとなんだか寂しくなって言い返そうとしたけれど、劇団員風の青年グループとすれ違って彼らの大声に臆してしまったように、言葉を飲み込んでしまう。代わりにシャツの端っこを何かを訴えるつもりで握りしめると、その手をそっと手を握ってくれた。
同じクラスの子に見つかって次の日冷やかされたら恥ずかしいから、学校の近くで手は繋がない、て言い出したのは弘道だったのに。自分から約束、破るなんて。
「じゃあ」
駅の改札前で握っていた手を解く。弘道は顔だけこっちに向けて、人波に埋もれそうな自動改札の方へ歩いていく。
ふいにちょっと息苦しくなって、胸の奥がきゅっと狭くなって、弘道の誘いを断った事を今さら後悔していた。
「じゃあね」
一瞬感じた寂しさを押し隠そうと、笑顔を作って手を振る。その後はくるりと背を向けて、家に近い北口へ続く小道を目指していた。
あたしと弘道は、あと何度こんなデートを重ねられるだろう。
ふたりはいつまで付き合っていられる? これからも一緒にいられるって保証はどこに? たぶん大学は別だ。弘道は大学こそ自分のレベルにあったところに行くだろうし、そこに受かるにはあたしの頭じゃとうてい無理。
そんな気持ち、沙有美にも莉子にも、もちろん弘道にも、絶対言えない。