*****


お盆真っ只中の、ある日。


日が暮れてからやって来たお客様は、三十代くらいの男性だった。
一瞬、人間のお客様かと思ったけれど、どうやらそうじゃないということにすぐに気づいた。


「私は三年ほど前に病気で亡くなりましたが、今日までずっと恋人の傍にいました」


しばらくの間はひと言も話さず、出されたおはぎにただ視線を落とすだけだった。
全身に悲しみを纏っているようなそのお客様は、お茶をひと口飲んだあとで、ようやくそう切り出した。


「生前、恋人には、私がいなくなったあとに新しい恋をするように伝えていました。私の病気を知っても離れずにいてくれた恋人に私がしてあげられるのは、きっとそんなことを言うことくらいしかありませんでしたから」


悲しみの色が強い瞳が、いっそう苦しそうになる。
その姿を見ているのは、とてもつらかったけれど……。

「恋人には、誰よりも幸せになってほしかったんです。だから、私の代わりに彼女を守ってくれる人が現れてくれることを願っていたはずでした……」

この場にいる以上はしっかりとおもてなしをしないといけない、と自分自身に言い聞かせていた。


「でも……ずっと泣いてばかりいた彼女が次第に笑顔を取り戻し、ようやく新しい恋をして、また幸せそうに笑うようになった姿を見て……僕は涙が止まりませんでした」


だけど、お客様とともに私の瞳にも涙が込み上げてくる。