『自分は口下手なので、きっと相手の女性を幸せにはしてやれない』

『私にこんなに優しくしてくださったのに、そんなことありません! あなたはとてもお優しい方です!』


自嘲気味に言ったおじいちゃんに、おばあちゃんは本心からそう返した。
だけど、ふたりの別れはあっという間にやって来る。


おばあちゃんは両親に見つかり、おじいちゃんにロクにお礼も言えないまま強引に連れ戻されてしまった。
悲しいけれど、これが自身に与えられた運命で、受け入れるしかない。


そんな風に諦めるしかないと悟った時、おじいちゃんと再会した。
さっき別れてから、一時間もしないうちに。


「おばあちゃんのお見合い相手は、おじいちゃんだったの」


運命だと思った、と、おばあちゃんはこの時のことを話すたびに幸せそうに零していた。
おじいちゃんはもちろん、どうにかして断ろうと画策していたお見合いを受けた。


「おじいちゃんの気持ちは一度も聞いたことがなかったけど、おばあちゃんと同じようにあの時に出会えて幸せだと思ってたのかな」


今となってはもう答えを知る術はないけれど、私の記憶の中のおばあちゃんの姿を思い出せば、答えなんて訊かなくても構わないと思えた。
だって、この話を運命だと言えず、あのふたりが幸せじゃなかったのなら、『この世のどこにも運命や幸せなんてない』と言っても過言じゃないと感じたから。