「かい…と」


呟きながら、その声がした方に視線を向ける。
するとそこには、あの夏消えてしまった、あの日からずっと探し続けていた大切な幼なじみ、緒方海斗(おがたかいと)の姿があった。


「海斗!」


溢れてくる想いと抑えられない衝動にかられ、露店の人にお金を払っている海斗に気付けば横から思い切り抱きついていた。


「えっ…」


戸惑うような声と、固まっている体。
ぎゅっと抱きしめてみても、海斗は時が止まったように立ち尽くしているだけだった。


「バカ!!」
「へっ?」
「何してたの?どこにいたの?」
「や、えっと…」
「ずっと、探して…海斗のこと、みんな探して…」


そう言いながらその胸に顔を埋めると、涙がポロポロこぼれてきた。


「ちょっと、いきなりなんなんですか?やめてください!」


だけどそう言われ、誰かにぐいっと体を引き離された直後。
私たちの間には何故か見知らぬ女の人が立っていた。


「何って、海斗が…」
「海斗って誰ですか?突然抱きつくなんて、おかしいですよ!」


おかしい?どうして?
だって、海斗が目の前に…。


「海斗!」
「ちょっ、夕海。落ち着けって」


取り乱す私を、駿が後ろからそう言って抑えてくる。


「だって海斗が!」
「待て、夕海。あの、突然すみません。その彼が俺たちの友達にものすごく似てて。本当に…よく似てて、そっくりで。その友達は、三年前の震災で行方不明になったまま未だ見つかってなくて」


冷静に、言葉を紡いでいく駿の声。
だけど目の前にいるのは確かに海斗で。
似ているなんて、そんな単純なことでは済まされないくらい、本当に海斗そのもので。


「何言ってるの駿。海斗だよ?ねぇ?海斗でしょう!?海斗!」


涙で滲んでいく視界の中、その目を見つめてただ名前を呼んだ。