「…あっつ」
閉じていた目を少しだけ開け、暑いとつぶやきながら真上に広がる空を見上げた。
水色で塗りつぶされたような晴れ渡る空と聞こえてくる波音にそっと耳を澄ませていると…大切な記憶がまたひとつ、脳裏に蘇ってくる。
鮮明に覚えている、この浜辺での忘れられない大切な思い出。
「誘われたから一緒に行く?そんなもん、断れよバカ」
「何でバカとか言われなきゃなんないの?海斗だって誘われてたでしょ?森田さんに」
あれは、中学三年の夏だったっけ。
自分の気持ちに気付いていながらも、相変わらず変化も何もない幼なじみとの間柄に、私は当時複雑な思いを抱えていて。
そしてそんな思いに追い討ちをかけるように、海斗が同級生で一番可愛いと言われていた森田さんという女子から二人で夏祭りに行こうと誘われていたことを陽ちゃんから聞いて知った。
モヤモヤした。イライラした。
でも、何も言えないくせに苛立っている自分には、何故かもっとイライラした。
だから私はそんな自分が嫌で。
これ以上つまらない嫉妬心を抱きたくない。
嫌な感情ばかりで胸の中が埋もれるくらいなら、と。
毎日顔を合わせていた海斗を避けるようになり、毎年恒例だった星の観察でさえ…誘われても断るようになっていた。
そして、ちょうどそんな頃。
私にも想定外だった出来事が起きた。
同じクラスだった橋本というクラスメイトの男子に、突然一緒に夏祭りに行こうと誘われたのだ。
特に仲が良かったわけでもなく、ただのクラスメイトだった橋本。
だからこそ、私は本当に驚いた。
二人で?と聞けば、二人でと言われ、さらにもっと驚かされた。
橋本が私を誘ってきた真意はわからない。
ただ誰かと夏祭りに行きたかったのかもしれないし、行く相手がいなかったから誘ってきたのかもしれないし。
どうして二人で?と聞けば良かったのかもしれないけれど、何故かその時はさらに問いかけることが出来ないまま、返事はちょっと待ってほしいと伝えた。