だけどそれは、本当に一瞬で。
ほとんど同時に、お互いまた前を向いて。

目が合ったといっても、一秒にも満たないほどの短い時間だった。


「…あのさ」


横断歩道を渡りきり、歩みを進める私の横で陽ちゃんがそう言って立ち止まる。
でも私は、歩く足を止めなかった。


「夕海!」


駆けてくる足音と、強く掴まれた腕。
動けなくなった私の前に陽ちゃんが回り込む。


「今の…」
「びっくりしたでしょ」


明らかに動揺している陽ちゃんに、精一杯明るく言う。


「そっくりさん大賞とかそういうのがあったら、絶対グランプリレベルだよね?」


そう問うと、唇を噛み締めた陽ちゃんはうつむき気味に口を開いて。


「…あぁ。正直、あそこまで似てるとは思ってなかった。さっき話を聞いた時は、海斗を忘れられない夕海の思い込みで、海斗に見えただけなんじゃないかって…そう思ってたけど。ごめん」
「えっ?」
「俺も、本当にあいつに見えた。海斗だって、錯覚したよ」


陽ちゃんはそう言うと、真っ直ぐに私に向き合って。


「三年経ってやっと。やっと、キセキが起きたのかなって…海斗が帰ってきたって、そう思ったら…」


泣きながらしぼり出すような陽ちゃんの声が、切なくて痛い。
あの夏、みんなが泣いていても、陽ちゃんだけは決して涙を流さなかった。

暗く沈んだ私たちを笑わせるように、いつだって明るく優しく、励ますように振舞ってくれていた陽ちゃん。

そんな陽ちゃんが、今、目の前で泣いている。

声を震わせ、肩を揺らし、小さな子供みたいに、泣いている。