「…年、七月二十九日」


河川敷の方から聞こえてきたその音声で、賑やかだった空気があっという間に静かになった。市長の声だった。


「三年前の今日、東海地震が発生し、多くの建物が倒壊しました。この町の沿岸部を津波が襲い、川を遡った津波は楽しいはずの夏祭り会場をも飲み込んでしまいました」


静まり返る町に、響き渡る市長の声。
記憶のカケラが、ひとつ、またひとつと脳裏に蘇ってきて、たまらず拳を握りしめた。


「あの夏、たくさんの人が泣きました。たくさんのものが失われました。大切な人を失い、行き場のない悲しみに暮れ、町から光が消え、明日への光さえもなくなった。不安で眠れない、そんな日々が続くなか…」


出来ることなら、思い出したくもない。
あの頃のことを思い出すと、ただただ苦しくて泣きたくなる。


「多くの悲しみを乗り越え、復興に向け一丸となって頑張ってくれたのは…っ…市民である、皆さんです」


震えるような市長の声。
話しているその顔は見えなくても、泣いていることが伝わってくる。

誰もがあの夏、きっと一度は諦めていた。
復興なんて不可能だと、きっと思っていた。

壊滅的だった沿岸部。
そしてこの川沿いにある町。

その復興は、荊のような道だったとおもう。