「ふぅ…」
浮かんでくる涙をそっと指先で拭い、小さく息を吐いた。
一番後ろを歩いていたおかげで、また泣きそうになっていたことには気付かれないで済んだ…そう思っていたけれど。
「大丈夫か?」
すぐ目の前を歩いていた駿はそう言いながらちらっとこっちを振りかえると、さり気なく私の隣に移動してきて、背中をトントン…と優しくさすってきた。
駿には、バレていたようだ。
いつもそう。
詩織と陽ちゃんは、私が暗く落ち込んだら面白おかしく笑わせてくれたり、立ち止まってしまう私を引っ張るように前へ前へと明るい道しるべを作ってくれるけれど。
駿は、二人とはまた違う。
私が立ち止まったら、すぐにそれに気付いて。
遅れていたら、振り返って、一緒に立ち止まってくれて。
踏み出せばまた、ゆっくりと同じ歩幅で歩いてくれる。
海斗がいなくなってからは特に、駿のこういうところに気付くようになった。
「さっきは、ごめんね」
「ん。いちいち謝んなって。俺だって正直びっくりしたし」
「…うん」
「でも本当、あまりにも似過ぎてたから。俺も一瞬、海斗だって。何してんだよって、錯覚した。でもさ…」
駿はそう言うと少し間を空け、前を向いたまま言葉を続ける。
「一緒にいた女の子、彼女っぽかったし。あの人も、人違いですよってハッキリ言ってたから。世の中には本当に似てる人が三人いるとか?そういうの、聞いたことあるし」
さっきの露店のおじさんも、同じようなことを言っていた。
この世には、似た人間が三人いるとか、そんなことを話していた。
私もいつだったか、そのような話を聞いたことはあった。
少し怖かったドッペルゲンガーの話なんかもあったな。
ボーっと遠い記憶を思い出しながら、あれはそうだったんだと無理矢理納得しようとした。
さっきの彼は、いわゆるそんなそっくりさんで、全く知らない別人だったということ。
「でも、本当によく似てたよね…あの人」
赤の他人。
そう言い聞かせるようにわざと“あの人”と口にしてみたけれど。
心のどこかではまだ降参しない別の感情が、抵抗するように暴れる。
「私のそっくりさんも、この世界のどこかにいるのかなぁ…」
つぶやくようにそう言うと、また胸の奥が切なく痛んだ。