「にゃーん」

 鈴のような声で鳴きながらすり寄ってきたのは、私の定期券をくわえていった白黒の猫。

「あ、この子」
「ああ、これ、あなたの定期券でしょ? はい」

 オネエさんが、赤いパスケースに入った私の定期券を手渡してくれる。

「ありがとうございます。あの、おふたりが助けてくださったんですか?」

 まあね、とオネエさんがため息を吐きながら腰に手を当てた。見た目はイケメンなのにその仕草は色っぽい女性そのものだから、頭が混乱してしまう。

「この子が私のお店に呼びに来たときは、どうしようかと思ったわよ。この店の前で倒れていたから、とりあえず店の中まで運んで来たんだけど」
「は、運んでくださったんですか!?」

 眠っていたとはいえ、運ばせてお腹の音まで聞かせてしまったなんて、申し訳ないやら恥ずかしいやらで、顔が合わせられない。

「いろいろご迷惑をおかけしてしまったみたいで、すみません……」

 深々と、頭を下げる。興味津々という様子で私を取り囲んでいた猫たちは、気が済んだのか部屋のそこかしこに散って行ってしまった。

 改めて部屋の中を見回してみる。カフェの看板だと思ったものは、猫カフェだったみたいだ。カーペットが敷かれた部屋にキャットタワーや猫のおもちゃ、人間用のテーブルとクッションが所狭しと置かれていて、私は空いたスペースに寝かされていたらしい。本棚の上やキャットウォークで寝ている猫たちもいて、人口密度、もとい猫口密度がすごい。