* * *

 もふもふ、ふわふわ。
 柔らかくてふさふさしたものが、私の頬を撫ででいる。
 あったかいし、ミルクみたいな匂いはするし、いい気持ち。最近寝不足だったし、このまま寝ていたいかも。
 まどろみながらそんなことを考えていると、頭の上からこんな声が聞こえてきた。

「救急車を呼んだほうがいいんじゃないか、ですって?」

 低い、男の人の声。でもなんだか違和感がある。

「いらないと思うわよ。ただの貧血だと思うし」

 ああそうか、男性の声なのに女性の口調だからか。なんていうんだっけこういうの。ええと、オネエ言葉?

「だってほら、この子のお腹の音、聞いてごらんなさいよ」

 ……ん? お腹の音?
 目をつぶったままで、耳をすませる。
 
 ぐぅうううう~。

 明らかに私のお腹の中から、熊のうなり声みたいな音が響いていた。

(いやだ、恥ずかしい!)
 
 がばっと起き上がりながら目を開けると、ふたつの顔が私を覗き込んでいた。

「あら、やっと起きたわね」
「ぎゃっ」

 思わず、軽く身体を引いてしまう。

「ちょっと。人の顔を見るなり悲鳴をあげるなんて、ひどいじゃない」
「ご、ごめんなさい。ちょっとびっくりして」

 だって、オネエ言葉を話すこの人が、ものすごい美形だったから。