大通りはいつも通っていたのに、裏道に来たのは初めてだった。
 こぢんまりした通りだけど、カフェやらバーやら、おしゃれな看板が道を彩るようにかかっている。
 こんなところ、あったんだ。なんだか、隠れ家みたい。

 独特の雰囲気に一瞬呑まれてしまったけれど、そんな場合じゃない、と猫に向き直る。猫ちゃんはカフェの前で立ち止まると、手を広げてかがみこんだ小柄な女の子の腕にするっと収まった。ダッフルコートと猫耳付きのニット帽を着た、中学生くらいの女の子。猫の飼い主なのだろうか。
 小柄な女の子の腕に収まりきらずに、猫のむっちりとした肉がはみ出ている。

「あ、あの、その猫つかまえていてください」

 声をかけるも、女の子は無感情な瞳を私に向けるのみ。猫を撫でるのに手を動かしているものの、その表情は無のまま動かない。
 聞こえていないのだろうか。でも、視線は確かにこちらを向いている。
 まぁ、いいか。お願いしたとおり、つかまえてくれているみたいだし。
 猫がそのままおとなしく腕におさまっていてくれることを願って、足を進めたとき。

(あ……あれれ?)

 急に目の前がぐらんと揺れて、足がもつれた。空腹なのに急に走ったからめまいを起こしたのだろうか。
額を押さえながら地面に膝をつくと、そのまま視界がどんどん暗くなっていく。ただのめまいじゃない、かも。
 まずい、倒れる、と思った瞬間には、意識は半分飛んでしまっていた。

 気を失う直前、猫を抱いた女の子がそばに近寄ってきた気配がした。