こころ食堂のおもいで御飯~仲直りの変わり親子丼~

「何を言っているんだ。君は就職活動をしていたんだろう。今だってリクルートスーツを着ているし」
「これは……。面接があるかもしれないと思って、気合いを入れて着て来たんです」
「はあ? 飲食店の面接にわざわざ?」

 腕を組んでうーん、とうなる一心さんを見て、気合いの入れ方を間違ったかも、とひやひやした。

「ダメだ。うちはまだアルバイトしか雇う余裕がないし、せっかく大学を卒業したんだからちゃんと就職したほうがいい」

 案の定、ぴしゃりと断わられてしまった。でも、ここまでは想定内。

「就職活動も、ちゃんとしていました。でもダメなんです、どうしてもこのお店のことが気になってしまって……。それに、もう自分をごまかすのはやめるって、この前決めたばかりだから」

 一心さんは厳しい顔で私を睨んでいた。こちらから引くのを待っているのだろう。
 彼を知らなかったら、怖気づいて「やっぱり、いいです」と言ってしまっていたかもしれない。でも、言葉がぶっきらぼうでも、表情が無愛想でも、一心さんが優しい人だってこと、私はちゃんと知っている。

 にらめっこのような時間が続いたあと、一心さんが根負けしたようにため息をついた。

「接客の経験は?」
「高校のときにコンビニ、大学に入ってからはレンタルビデオ店と居酒屋をかけもちしていました」
「立ち仕事だし、休みは少ないし、思っているよりきつい仕事だぞ」
「体力には自信があります。ここ最近の出来事で、へこたれなさも身に付きました」

 一心さんが履歴書に目を落とし、しぶい顔のまま顔を上げた。

「……わかった。正直困っていたところだったからすぐ入ってもらえるのは助かる。大学の卒業式は終わったんだな。明日から来てもらえるか?」
「はい、もちろ……」
「ちょっと待ったァアアアーッ!!」

 ぱあっと顔を輝かせて返事をしたそのとき、通りの向こうから響さんが血相を変えて駆け寄ってきた。