こころ食堂のおもいで御飯~仲直りの変わり親子丼~

 その夜、私は実家のお母さんに電話をかけた。

「結、久しぶり。元気にしてるの?」
「うん、元気だよ」
「何もそっちで就活しなくたって、実家に戻ってきたっていいんだからね。田舎にだって探せば就職先くらいあるんだし」
「……うん」

 内定先が倒産したばかりの頃は、卒業したら実家に戻って就職しようという気持ちもあった。彼氏にも振られてしまったし、この街に留まっている理由もなくなってしまったなって。でも……。

「あのね、お母さん。私もう少しこっちで頑張ってみるよ。働いてみたい場所ができたの」

 ひょんなことで出会った食堂の料理の味に感動したこと、ちょうどタイミング良く従業員を募集していることを話したのだが、お母さんは浮かない声だ。

「でもねえ。飲食業は大変だっていうわよ。土日に休めないし、帰りも遅くなるし。もっといいところが見つかるんじゃないの?」
「うん、わかってる。でもね、やってみたいの。自炊も覚えたし、大変でも何とかなると思う」

 そう、三食きちんとごはんを食べてさえいれば、なんとかなる。そして、自分ひとりが食べていくことは、そんなに難しいことじゃない。

「あとね、ここのところいろいろあって、安定を選んだつもりでもいつどうなるかわからないんだなって感じたの。だったら、自分がやりたいと思った仕事を選びたいって」

 電話口のお母さんが、押し黙る。ふう、というため息のあと、今までとは違う声色が聞こえてきた。

「そうね。お母さんもそれはよくわかる。好きな仕事のほうが続けられるっていうのも。ただ、どんな仕事でも始めてみないと自分に合っているかわからないんだから。つらくなったら自分ひとりで抱え込まないってことだけは約束して」

 私がごはんを食べられなくなったこと、お母さんには内緒にしていたけれど、気付いていたのかもしれない。

「うん。……ありがとう、お母さん。心配かけてごめんなさい」
「いいのよ、それが親の仕事なんだから。頑張りなさいよ」

 電話を切って、ふうっと息をつく。
 自分の心は決めた。その確認もできた。あとは、最終関門だ。