こころ食堂のおもいで御飯~仲直りの変わり親子丼~

 メモ用紙には、男性っぽい、でも整った文字で食材の名前や分量が書いてあった。

「これって……レシピ?」
「ああ。しばらくちゃんとした食事を摂っていなかったみたいだから、体調が戻るのに時間がかかるだろう。これと米だけでいいから毎日作って食べてみろ。外食だとなかなか汁物が摂れないからな」
「ありがとうございます……」

 胸がじーんとして、お礼の言葉が涙まじりになってしまった。いただいたレシピのメモの文字がかすんでしまい、あわてて鼻をすすってバッグの中にしまった。

「なんだかお腹がすいちゃったわ。何か食べてから開店準備しようかしら。一心ちゃん、あたしにもさっきの味噌おにぎり作ってちょうだい。あっ、テイクアウトでね!」

 響さんとミャオちゃんは、まだここに居座るみたいだ。やれやれ……というように一心さんがため息をつく。
 私は後ろ髪を引かれながら、何度も三人にお礼を言って、お会計を済ませて『こころ食堂』をあとにした。

 アパートに帰ってからメモを念入りに読んでみると、具だくさんのお味噌汁の作り方が丁寧に書いてあった。それぞれの工程のポイントや、注意点まで書いてくれている。

「すごい……。これをあの短時間で……」

 今日会ったばかりの、常連でもない私に、一心さんも響さんも、ミャオくんも親切にしてくれた。
 猫に導かれて入った『まごころ通り』は、人情にあふれた、炊きたてのご飯みたいにあったかい場所だった。
 一日でいろんなことがありすぎて、そして出会った人たちの個性が強すぎて、できすぎた夢みたいに思えるけれど、手の中のメモと満たされたお腹が夢じゃないことを証明してくれる。

「……よし!」

 まずは、スーパーでお味噌汁の材料を買いそろえるところから始めなくては。計量カップと計量スプーンも忘れずに。そして茨城県産のお米も探してみよう。誰でもない自分のために、毎日のごはんを作るのだ。
 料理もうまくなって、就職の内定も決めてみせる。
 自分の眠っていたやる気が、むくむくと湧いてくるのを感じた。