「自分をごまかしていたせいで、ご飯も食べられなくなって……。でも、ちゃんと認めることにします。そうじゃないと、いつまでも前に進めないから」
「そうよね、いい男なんて世の中にたくさんいるわ。希望を持って頑張りましょ!」
「はい。今日は本当にいろいろとありがとうございました。そろそろ開店時間みたいなので、今日はいったんお暇(いとま)しますね。お会計は……」
バッグとコートを持って立ち上がろうとすると、一心さんに
「待て。まだもうひとつ、気になることが残っている」
と引き止められた。
「料理が下手なのは、大雑把に作っているからじゃないか? 分量はレシピ通りに計っているか?」
「……えっ。でもおばあちゃんは、いつも目分量で……」
「それが許されるのは、よっぽど作り慣れた人だけだ。料理初心者がつまずくので一番多いのが分量をきちんと量らないことだ。家に計量カップや計量スプーンはあるのか?」
「な、ないです……。いつも適当なスプーンでなんとなく量っていました……」
私の返事を聞いて、一心さんの切れ長の目がますます鋭くなる。
「買え。そしてきっちり量れ。君が料理下手なのは味覚に問題があるからじゃない、やり方がわからなかっただけだ。焦らず、丁寧にゆっくりやれば必ずできる。……ちょっと待ってろ」
一心さんは腰下エプロンのポケットからメモ帳とペンを取り出し、カウンターの端っこでしばらく何かを書きつけたあと、私に渡してきた。
「そうよね、いい男なんて世の中にたくさんいるわ。希望を持って頑張りましょ!」
「はい。今日は本当にいろいろとありがとうございました。そろそろ開店時間みたいなので、今日はいったんお暇(いとま)しますね。お会計は……」
バッグとコートを持って立ち上がろうとすると、一心さんに
「待て。まだもうひとつ、気になることが残っている」
と引き止められた。
「料理が下手なのは、大雑把に作っているからじゃないか? 分量はレシピ通りに計っているか?」
「……えっ。でもおばあちゃんは、いつも目分量で……」
「それが許されるのは、よっぽど作り慣れた人だけだ。料理初心者がつまずくので一番多いのが分量をきちんと量らないことだ。家に計量カップや計量スプーンはあるのか?」
「な、ないです……。いつも適当なスプーンでなんとなく量っていました……」
私の返事を聞いて、一心さんの切れ長の目がますます鋭くなる。
「買え。そしてきっちり量れ。君が料理下手なのは味覚に問題があるからじゃない、やり方がわからなかっただけだ。焦らず、丁寧にゆっくりやれば必ずできる。……ちょっと待ってろ」
一心さんは腰下エプロンのポケットからメモ帳とペンを取り出し、カウンターの端っこでしばらく何かを書きつけたあと、私に渡してきた。



