「ごめんなさい。私本当は、なんとなくわかっていたんです。彼が私と別れる言い訳のために味オンチって言ったこと」
一心さんは、私を見つめたまま目をみはっていた。
窓の外を見ると、とっぷり日が暮れている。確か看板に、夜営業は十八時からと書いてあった。私たちが一心さんを独占できるのももうすぐ終わり。『こころ食堂』はすぐに、お腹をすかせたお客さんでいっぱいになるだろう。
「別れてすぐ、内定取り消しになった私と一緒にいるのが重いって、彼が友達にこぼしていたことを知ったんです。自分は銀行に内定が決まって周りに自慢していて、春までは存分に遊ぶぞって豪語していて。それなのに私が辛気臭い顔でそばにいるから水を差されたって」
「なにその男。そこで彼女を支えよう、って思うのが本当の愛じゃない。勝手なものね」
憤慨する響さんの台詞に合わせて、ミャオちゃんがこくんと頷いてくれた。ありがとう、と言いたかったけれどぷいっと顔を逸らされてしまう。
「そうですよね。でも私……、二年間も付き合った人が、そんな冷たい人だと思いたくなかった。私が大変な目にあったら即座に別れを切り出すような人だと認めて、今までの年月を否定したくなかった。楽しかった思い出も、ぜんぶつらいものになってしまう気がして……。料理が下手だから振られた、そう信じていたほうがまだマシだったんです」
でも、それがいけなかったのかもしれない。友達にも相談できないから、どんどん自分の中につらい気持ちばかりが貯まってしまった。
一心さんは、私を見つめたまま目をみはっていた。
窓の外を見ると、とっぷり日が暮れている。確か看板に、夜営業は十八時からと書いてあった。私たちが一心さんを独占できるのももうすぐ終わり。『こころ食堂』はすぐに、お腹をすかせたお客さんでいっぱいになるだろう。
「別れてすぐ、内定取り消しになった私と一緒にいるのが重いって、彼が友達にこぼしていたことを知ったんです。自分は銀行に内定が決まって周りに自慢していて、春までは存分に遊ぶぞって豪語していて。それなのに私が辛気臭い顔でそばにいるから水を差されたって」
「なにその男。そこで彼女を支えよう、って思うのが本当の愛じゃない。勝手なものね」
憤慨する響さんの台詞に合わせて、ミャオちゃんがこくんと頷いてくれた。ありがとう、と言いたかったけれどぷいっと顔を逸らされてしまう。
「そうですよね。でも私……、二年間も付き合った人が、そんな冷たい人だと思いたくなかった。私が大変な目にあったら即座に別れを切り出すような人だと認めて、今までの年月を否定したくなかった。楽しかった思い出も、ぜんぶつらいものになってしまう気がして……。料理が下手だから振られた、そう信じていたほうがまだマシだったんです」
でも、それがいけなかったのかもしれない。友達にも相談できないから、どんどん自分の中につらい気持ちばかりが貯まってしまった。



