「あ、あれ? すごくしょっぱいのかと思って飲んだらそんなことないんですね。むしろ酸味のほうが強いし、お出汁の味が濃く感じます」

 ちょっと癖があるけれど、飲み慣れたらおいしく感じる気がする。

「確かにこのお味噌汁に慣れていたら、私の作ったお味噌汁にはびっくりするかもしれません。私だって現に今、びっくりしてしまったし」
「そうだ。でもそれは育ってきた地域や好みの問題で、君が悪いわけでも、ましてや味オンチのわけでもない」

 一心さんの言葉に、胸が詰まる。

「でも待って。その彼だっていくら地方出身って言ったって、こっちに来てから味噌汁くらい飲んだでしょう。東日本と西日本で味噌が違うことくらいわかっていたんじゃないの?」

 確かに、そうだ。私もずっと、彼の言葉が引っかかっていたんだ。料理が下手なのは事実だけど、あの場でそう言って私を貶める必要なんてなかった。
 黙りこんだ私を見て、響さんが何かに気付いたような気の毒そうな顔になる。

「一心ちゃん、こんなこと追及したってしょうがないわ。その男が最低だったってことでいいじゃない」
「しかし……」
「いいんです、響さん。一心さんも、真剣に考えてくださってありがとうございます」

 一心さんの言葉をそう言って遮ったとき、食堂の中には気まずい空気が流れた。
 みんな、私が話すのを待っている。湯飲みに残っていたお茶を一気に飲んでから、大きく息を吐いて頭を下げた。