「ワカメと豆腐のお味噌汁、です。私、料理がもともとあんまり得意じゃなくて、でも彼氏がお味噌汁が好物だって言うから、それだけでもうまく作れるようになりたいと思って練習したんです。そのときも、自分ではうまく作れたと思ったんですけど、彼氏は『こんなの味噌汁じゃない、うちの味噌汁はこんな色をしていなかったし、味も違う』って。私の家はこんな感じだったよって言ったら、味オンチって言われて出て行かれちゃいました」

 私の話をひととおり聞いた一心さんは、険しい顔で眉を寄せた。

「その彼はもしかして、西日本出身じゃないか?」
「は、はい。名古屋です。そういえば、後輩の女の子も関西でした」
「やっぱりそうか。味噌汁の味噌は、地方によって使うものが違うんだ。君の出身の茨城はあわせ味噌が主流だったと思うが、関西は白味噌、そして愛知県は赤味噌だ。地域によってはより酸味の強い八丁味噌を混ぜることもある。……飲んでみたほうが早いな、ちょっと待ってくれ」

 奥の厨房に向かった一心さんは、今度はすぐに戻ってきた。

「出汁に、赤味噌と八丁味噌を混ぜたものだ。具なしの味噌汁みたいで悪いが」

 一心さんが出してくれたお椀には、お味噌汁と思えないような濃い色の液体が注がれていた。

「い、色が全然違います! 茶色が濃くて、具を入れても見えなそう……」

 でも、お出汁の香りがするし、確かに味噌汁なのだろう。私はおそるおそる、お椀に口をつけた。