「あ……あれ?」

 無表情なはずのミャオちゃんが、私を見て目を丸くしていた。

「おかしいな、涙が止まらない……。すみません」

 涙をぬぐい、鼻をすすりながらも、おにぎりを食べるのをやめられない。

「この甘みも味も、おばあちゃんのものと同じで……。懐かしくて、私……」
「ああ。ゆっくり食べろ」

 一心さんが、ふっと優しい顔で微笑んだ。不器用で、慣れてなさそうなその笑顔が、何だかこのおにぎりみたいに素朴であったかいなと思った。

「大丈夫、みんなわかってるから。涙なんてふかなくていいから、食べちゃいなさい」

 ぐしょぐしょな顔でおにぎりを頬張る姿は、傍から見たらおかしな光景だったと思う。開店前で良かったと心底思った。
 一心さんと、響さんと、ミャオちゃん。三人に見守られながら、私はふたつめのおにぎりも完食したのだった。

「ごちそうさまでした」

 そう言って手を合わせたとき、私のお腹も心も、満ち足りた幸福感でいっぱいだった。おなかいっぱいおいしいものが食べられる幸せ。おいしいものをおいしいと感じられる幸せ。当たり前だと思っていたことが、とてもかけがえのない幸福なことだったとわかった。
 こんなことがなかったら、実感できないまま生きていったかもしれない。それってとても寂しいことだと思う。だってこれからは、ごはんを食べるたびに感謝と幸せを感じることができると思うから。