「私、その味噌おにぎりが大好きだったんです。おばあちゃんはもういないけれど……」

 味噌おにぎりだったら私も大学生になってすぐ作ってみたけれど、おばあちゃんの味とは似ても似つかなかった。
 でも、この人なら、もしかして――。

「わかった」

 一心さんはそう言うと、奥の厨房に消えて行ってしまった。

「大丈夫よ、安心して待ってましょ」

 と言う響さんと、無言のミャオちゃんの間で緊張しながらお茶をすする。やがて、いい匂いのするお皿を持って一心さんが戻ってきた。

「お待たせしました」

 と言って、カウンターにコトリと置いたお皿を私の前に寄せる。
 木のお皿の上には、味噌おにぎりとたくあん、きゅうりの漬物が載っている。ほかほかと湯気をたてるおにぎりは綺麗な三角で、味噌の香ばしい匂いが鼻先まで漂ってくる。

「さめないうちに、どうぞ」
「……いただきます」

 あつあつのおにぎりを両手で持って、「あちち」と言いながらかぶりつく。
 ちゃんと、食べられるだろうか。
 躊躇して小さめになってしまったひとくちだったけれど、咀嚼した瞬間、懐かしい味が口いっぱいに広がった。

「お米が……甘い! 焦げ目のついた味噌もちょうどいいしょっぱさです……! おにぎりも、米がつぶれないようふわっと握ってあるのに、形が全然崩れない……!」
「そうか」

 一心さんが、ほっとしたような顔で私の言葉に頷く。