「ごめんなさい……。今は何も、喉を通らなくて……」
「いや、こちらこそ悪かった。無理に考えなくていい」

 また、ため息をつかれると思ったのに、一心さんはいたわるような視線を私に向けてくれた。たったそれだけなのに、まぶたの奥がちょっと熱くなる。
 大学で、友達が心配して食べものを差し入れてくれるのはとてもありがたかった。でも、いつまでもちゃんと食べられなくて、そのたびにがっかりした顔をされるのが、とてもつらかった。
 みんな一生懸命私を治そうとしてくれた。でも、食べられないことをそのまま受け入れてもらえたのは、初めてだったんだ。

「でもなんで、そんなことになってるのよ。昨日今日って感じでもないし、ダイエットでもないんでしょう?」
「それは……」
「話してみなさいよ、このオネエさんに。ん?」

 微笑みながら見つめてくる響さん。人生経験豊富そうなこの人に、話してみてもいいだろうか。ここ一か月で急転直下してしまった私の人生を。

「実は……」

 私は、内定先の会社が潰れたこと、二年付き合った彼氏に『味オンチ』と言われて振られたこと、彼はすぐに後輩の料理上手な女の子と付き合い出したことをぽつぽつと説明した。

「それは、まあ、何というか……。食欲がなくなっても無理はないわね……」

 私の話を聞き終わった響さんが、額を手で押さえながら気の毒そうな口調でつぶやく。