一心さんが、この食堂で料理を作っている人なのだろうか。こだわりのある職人さん、といった風貌だから、『こころ食堂』のようなほっこりした店名が意外に思えた。

「いいからあなたたちも座っちゃって」

 迷惑じゃないのだろうか……と戸惑いながらミャオちゃんを振り返ると、無表情のまま先にはじっこの席に座られてしまった。仕方なく、響さんとミャオちゃんに挟まれた席に腰を下ろす。
 一心さんはため息をつきながらも、おしぼりとあたたかいお茶を出してくれた。

「持田さん、一心ちゃんはここの店主なのよ。ちょっと無愛想だけど腕は確かだから安心して」
「無愛想は余計だ」
「あ……」

 響さんが食堂に連れてきてくれた意味に、気付いてしまった。聞かれてしまったお腹の音。ダイエットを否定したミャオちゃんと豆大福。それを放っておけるような人ではなかったのだろう。

「ねえ一心ちゃん、この子に『おまかせで』何か作ってあげてよ。いいでしょ? ろくになにも食べていないみたいなの」
「頼みってそういうことだったのか。それなら店が始まってから来れば良かっただろ」

 また、ため息。やっぱり迷惑なんだ、と萎縮してうつむいてしまう。

「何か食べたいものはあるのか?」

 一心さんに尋ねられて、ぱっと顔を上げる。迷惑がっていると思っていたのに、その表情はとても真剣だった。

「あ……。ええと……」

 私もその表情につられて、一生懸命考える。でも、何も浮かばない。ここで何も食べたくないって答えるのと、せっかく作ってもらった料理を食べられないのと、どっちが失礼なのだろうか。

 悩んだ末、私は正直に答えることにした。